恋が始まる前に〜『あ』で始まる言葉を言いたくて〜❤️
第1章
身勝手な男たち
「あいつ、安上がりな女でさ……」
残業した帰りで、へとへとに疲れていた。
エレベーターホールへ向かうと、聞こえてきた男の声。
聞き覚えのある声だ。
まだいたんだ。
男のセリフが気になるようなセリフだっただけに山梨 翼は、足を止める。
首を伸ばしてみると、エレベーターを待つスーツ姿の男たちの背中が目に入ってきた。
やっぱりだ。
見覚えのある同期の2人組だ。
「言い方が悪いよなぁ。お前もさぁ、もっと違う言い方出来ないのかよ」
エレベーターを待ち並んで立つ男たち。
ネイビースーツの方が、ダークグレーの方を少し見上げるようにした。気色の悪い赤い細縁メガネが見えて、ネイビースーツの方が総務部の熊本 実だと確信出来た。
少しにやけた横顔の熊本が見えた。
「だけどさ、なんだかんだ言っても、あの子との結婚を考えてんだろ?」
「ああ、結婚しとかないと世間がうるさいだろ? それにさ、あいつは安上がりな女だから、結婚には丁度いいんだよ」
ダークグレーの男の横顔も目に入ってきた。
鼻が高く、目尻が少し上がり切れ長の目が特徴の本格的なキツネ顔、千葉 徹だった。
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