Memorys ‐過ぎ去りし時間‐
片づけていれば、聞き慣れた声が私の名前を呼んだ。

 「刹那?」

見られたくなくて早く出てきたのに…
間に合わなかったか。

声のした方に向き直る。

 「おはよう、蓮花」

何もなかったかのように、挨拶を返す。

彼女から見えないように机を隠したが、
一歩遅かったようで彼女の表情は歪む。

 「それ、どうし…」

 「何でもないよ」

彼女の言葉を遮る。

 「HR始まるよ?自分のクラスに行きな」

 「・・・・・」

蓮花がそんな表情しなくてもいいのに…
ごめんね。

彼女は俯いて黙ったまま動かない

 「蓮花」

私は彼女の傍に行き廊下に連れ出す。

このままでは注目されるだけだ。
人に居ない場所に移ろう。

私は蓮花の手を引いて教室から出た。

1階の踊り場まで来て彼女と向き合う。

 「ど、して・・・刹那なの?」

彼女の肩が震え床には涙が落ちた。
また今日も泣かせちゃった…
やっぱり彼女と一緒に居ちゃダメなんだ。

 「私の態度が気に入らないからだって。泣かないでよ、蓮花」

 「泣いてなんか…っない!」

涙を荒く拭う彼女を優しく抱きしめる。
それからなだめるように背中をポンポンと叩いた。

 「ごめんね」

 「刹那は悪くない!なのに何でっ…」

 「私にも非があったのは事実よ。こんな嫌がらせ全然平気だから安心して」

 「でも、刹那はあの人たちに!」

 「大丈夫よ」

蓮花は優しい。
だから私なんかの為に涙を流してくれる。

嬉しいけど今はそれが怖い。
彼女を巻き込みたくないもの。私の大事な親友だから。
蓮花には太一が居るし大丈夫だろう…

「ねぇ、蓮花にお願いがあるの」

私が何かお願いをするのはこれで2回目。
“笑って”とお願いしたのが1回目。

 「私に出来ること…?」

私はコクリと頷いた。
彼女と繋がれる手にギュッと力が入る。

 「聞かせて、刹那」

 「うん、ありがと」

もうお願いをするのは最後にしよう。

これを言葉にしてしまえば、もう私の傍には誰も居なくなる。

それは少し怖いけれど、でも蓮花を守るためだから…

昨日飲み込んだ言葉を口にする。

 「私に今後何があっても関わらないで。会っても他人のフリをしてほしい」

彼女の手をそっと離す。

 「ごめんね」

そっと微笑めば、彼女の瞳からはまた涙が零れ落ちた。
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