可愛げのない彼女と爽やかな彼氏
突然の告白
相川くんと手を繋いで帰ってからというもの、社内では注目の的だった
ある程度は予想していたものの、コソコソと陰口をたたかれているのは、あまり気分がいいものではない

相川くんも
「こんなに噂されるとは、思ってもいませんでした」
と苦笑していた

それから数週間が経って、ほとぼりが冷めた頃、社食で1人、ランチを食べていたときだった


「ここ、空いてますか?」
「……」
「進藤係長?あなたに話し掛けてるんですが?」
「へっ?」


まさか自分に話し掛けられてるとは思わなかったので、慌てて声のする方を見上げた


「ごめんなさい。まさか、私に話し掛けてるとは思わなくて」


そこには、秘書室の木崎智也課長が立っていた
確か、年は私より2つ上だったような気がする
フレームレスの眼鏡が似合う、知的なハンサムな人で、この人も女性社員の間では人気があった


「いえ、気にしないで下さい。それより座っても?」
「ええ、どうぞ」


他の席も空いてるのに、何故ここに?
まあ、いいかと食事を続けた

しばらくすると、木崎課長がふっと笑った
え?と顔を上げると、苦笑している課長と目が合った


「もっと警戒心があってもよくないですか?進藤係長」
「は?」
「他に席が空いてるのに、わざわざ係長の目の前に座った。しかも、彼氏がいると分かっているあなたの目の前に」
「はあ」
「あなたに気があるとは思いませんか?」
「はっ!?」


思わず体を引くと、その拍子にランチのトレイに体が当たって結構な音がした


ヤバイ
みんな見てる


「そんなに驚かなくても」


いやいや、そんなに飄々としている木崎課長が信じられませんが?


「相川くんと別れて、俺と付き合いませんか?」
「嫌です」
「今すぐとは言いませんから」
「無理です」
「考えてもくれないんですか?」
「考えたくもないです」
「随分はっきり言ってくれますね」
「すいません、性格がキツイもので」


ふんっと、そっぽを向くとぷはっと笑う


「面白いですね。進藤係長」
「私は全く面白くありません」
「とりあえず、今日は退散します」


にっこり笑ってトレイを持って立ち上がる木崎課長を呆れた顔で見上げた

いつの間に食べたんですか?


「これからもよろしくお願いします。進藤係長」


颯爽と食堂を後にする木崎課長を、呆けた顔で見ていた
はっと我にかえって周りを見てみると、当たり前だが注目を浴びていた
周りの視線に耐えきれず、トレイを返して食堂を後にした


痛いくらいの視線が背中に刺さっているのが分かる
また、社内の注目を浴びるのかと思うと頭が痛い

でも……

木崎課長は何故わざわざ注目を浴びるような事をしたんだろうか?
はっきり言って、仕事でもほとんど接点がなく、今日初めてあんなに喋ったようなものだ
だから「付き合いませんか?」などと言われて、例え今、相川くんと付き合っていなくても、直ぐには「はい」とは言わなかっただろう

とは言え


「相川くん、明日まで出張だったな」


1人呟いて溜め息をついた
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