可愛げのない彼女と爽やかな彼氏
「何か?」
「君が一番聞きたいのは違うことなんじゃないのか?」
「……進藤係長の事、本気ですか?」
「だとしたら?」
「渡しません。それだけです」


そうはっきりして言うと、木崎課長は少し驚いた顔をしたが、すぐに平静にもどった


「それは進藤係長次第だろ?今は君の事が好きかもしれないが、心変わりするかもしれない」
「そうですね。でもそうならないように、最大限の努力はしてます」
「君だって心変わりするかもしれない」
「それはないですね」
「随分はっきり言い切るね」
「それより、私の質問に答えてもらってないですが?」


木崎課長は軽く笑って、はっきりと言った


「本気だよ。ずっと見てた。何も行動をおこさなかった俺も悪いけど、君と付き合ってると分かった時、本当に後悔した。このままじゃ後悔しか残らないと思ったから、昨日社食で進藤さんに声をかけた。玉砕覚悟でね」


息を呑む俺をよそに、木崎課長は続けた


「フランス支社に行く前から見てた。転勤が決まったから何も言わなかった。本社に戻って来たときには、皆川部長と付き合ってた。皆川部長が相手ならしょうがないと思って、諦めようとしたが、すぐに2人が別れたことを知った。だが、俺が付いてるのは、あの三浦常務だ。あの人の我が儘に付き合い、尻拭いをしてる間に今度は君と仲良く手を繋いで帰って行くのを見た」


ふうっと息を吐いて、椅子の背にもたれるのを呆然と見ていた


「もうたくさんだと思ったんだ。自分の思いを告げずにただ見ているのは。進藤さんを思っている間、他の女と付き合わなかったなんて言わないよ。でも、どことなく、進藤さんに似た女達だった。君が出張中に、しかも社員の目がある中で声を掛けたことはフェアじゃないことは百も承知だ。これからはあんな事はしないと約束するよ。でも」


木崎課長が言いたいことは想像出来た
でも、止める事は出来なかった


「もう後悔はしたくない。だから、正々堂々と勝負しないか?相川くん」


そう言って俺を見る木崎課長は、本気だった


そんな事言われて、逃げる訳にはいかないんだよ


「分かりました。でも、これだけは約束してもらえますか?」
「約束?」
「奈南美さんを傷つけるような事は絶対にしないでください」


俺は真っ直ぐに課長を見て言った
木崎課長は軽く笑った


「ああ、約束するよ。俺だってそんなことは望んでない。じゃ、これからもよろしく、相川くん」


そうして手を差し出されたので、俺も手を差し出して、握手した

海外事業部に戻って、部長に書類を手渡した


「木崎課長から預かってきました。今までの三浦常務の悪行三昧だそうです。木崎課長も三浦常務の尻拭いはうんざりさているようです。この事は、田村室長はしらないですが、吉田社長は承知の上だそうです。報告は以上です。では、自分の業務に戻らせていただきます」


一気に報告をして、席に戻ってデスクワークを再開した
皆が注目していたが、そんなことは知ったこっちゃない


「おい、相川」
「何ですか?部長」
「木崎課長と仲良くなったのか?」
「いいえ。その書類と伝言を預かっただけですが?」
「それだけか?」


部長を睨んでやると、楽しくてしょうがないというような顔をしていた


性格悪いな本当に!


「プライベートな事は報告しなくていいと、言っていませんでしたか?」
「ほう。という事は何かあったんだな」


他のメンバーも聞きたくてたまらないという感じだったので、もういいかと思ってしまった


「売られた喧嘩を買っただけですよ」


その後で部屋に響いた悲鳴といったらなかった


溜め息をつきながら思った

木崎課長が本気で奈南美さんにぶつかっていったら、俺に勝ち目はあるのかと
さっき部長に渡した書類や伝言、それを踏まえて考えてみても、木崎課長は社長からも一目置かれていると言うことだ
皆川部長も同じく社長に一目置かれている人
それだけ仕事が出来るという人
それに、外見もはっきり言って、格好いい
眼鏡が似合う知的なハンサムだ
そんな人を相手にして、俺は奈南美さんを手放すことになるんじゃないかと……
そんなことを考えながら仕事をしていると、藤川さんが声をかけてきた


「相川さん、進藤係長って可愛いですね」
「は?何?いきなり」
「今日、一緒にランチしたんですよ。また一緒に行きましょうって約束しちゃいました」
「そう……」


藤川さんはにっこり笑って仕事に戻った


そう、奈南美さんは可愛い
見た目は綺麗系だが、性格は可愛いらしい人だ


誰にも渡したくない
絶対に……


そう思いながら、出張中にたまっていた仕事を片付けていった
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