可愛げのない彼女と爽やかな彼氏
もう一度録音した会話を聞いた


ふうっと息を吐いて、皆川部長が言った


「相川、お前ならどうする?」
「俺ですか?」


部長は頷いた
相川くんはそうですね、と言って口を開いた


「三浦常務は韓国との足掛かりになればいいと言ってます。それは何も、K貿易との業務提携にこだわってないんじゃないでしょうか。進藤係長にあんな事を言ってくる自体、K貿易がどんな会社なのか想像がつきます」
「まあ、そうだな」
「K貿易と業務提携を結ばなければ、F社がなんらかの損失を被るような事をあの書類に書いているんでしょう」
「でも、業務提携の契約をしていない限り、F社が損失を被ることなんてあるんですか?」


宮本くんがそう言うと、相川くんがそこなんだと言った


「木崎課長に話を聞いた方がいいかもな。三浦常務が何らかの形でK貿易と仮契約のようなものを交わしているかも」
「その通りだよ、相川くん。三浦常務はK貿易と業務提携の仮契約を結んでる。社長の許可もなく」


するとそこに、木崎課長が書類を持って打ち合わせ室に入ってきた


「皆川部長、これがその仮契約書です。日本語ではありませんが」
「木崎課長、いいのか?こんなところに来て」


皆川部長は驚いた様子で木崎課長に話し掛けた


「ええ、大丈夫です。常務は上機嫌で帰って行きましたよ」


呆れたように笑って木崎課長は続けた


「その仮契約書、常務は気付いていませんが、社長は承知の上です。『後は皆川がやってくれるから、三浦常務には自由にやってもらおう』と言ってましたよ」


皆川部長はそれを聞いて、溜め息をついた


「まったくあの人は。それで、その仮契約書の内容は?分かっているんだろ?」
「ええ。今日三浦常務が進藤係長に渡した書類は彼が誰にも見せなかったので、翻訳出来ませんでしたが。仮契約書には、『もし、業務提携を締結出来ない場合は、F社はK貿易に違約金を支払うものとする』だそうです」
「その金額は?」
「……およそ10億円」


木崎課長の言葉にみんな驚いた


「何だって?」
「はあっ?」
「そんなっ!」


そんな中、相川くんだけ冷静だった


「それが、進藤係長の値段と言うことですか?」


相川くんの言葉に木崎課長は頷いた


「そういうことだ」
「でも何故、進藤係長に。俺が海外事業部にいるからですか?」
「それもあるが、三浦常務の個人的な気持ちもあるだろうな」
「それ、どういうことですか?」


木崎課長は溜め息をついて言った


「三浦常務の好みの女性は、知的な眼鏡美人だ。もし、進藤係長が眼鏡をかけたら……あの人の好みのど真ん中だ」
「はっ?私がですか?」
「そう、だから言っていたでしょう『君が泣きついて来るのを待ってる』と。あなたが泣きついて来たら……三浦常務はそのつもりだ」


思わず自分で自分を抱き締めた


沈黙が流れている所に、藤川さんと清水さんが打ち合わせ室に慌ただしく入ってきた
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