可愛げのない彼女と爽やかな彼氏

１階のロビーに着くと、相川くんがいた


「ごめん、相川くん。待った？」
「お疲れ様です。そんなに待ってませんから大丈夫ですよ。帰りましょう」
「うん」


何の躊躇いもなく私の手を取って歩き出す相川くんに、私はそのまま従った
この前はあんなに躊躇したのに、今日はそんな気持ちにはならなかった


「とりあえず帰って、晩御飯はピザでもとりましょうか」
「そうだね。何か今日は２人でゆっくりしたい」
「俺もです」


そうして、一緒に相川くんの家に帰って行った
その間、今日あったことは話さなかった
ただ、とりとめのないことを話して歩いていた
明日からは、忙しい毎日になるのは分かっていたから、今だけは２人の穏やかな時間を過ごしたかった
私も、相川くんも


相川くんの家に帰り着いて、お互い着替えて、ピザが届いて、２人で食べながら、木崎課長と今日喋った事を相川くんに話していた


「本当に諦めてるんですかね、木崎課長」
「だと思うけど。でも、本人がそう言ってるんだから、そう思うしかないんじゃない？それに……」
「それに？」


私はふっと笑って言った


「私には、相川くんがいればそれでいい」
「奈南美さん」


私が相川くんに身を寄せると、優しく抱き締めてくれた


「ねえ、相川くん？」
「何ですか？」
「私の、あの噂……」
「何も言うな」


相川くんは、ぎゅっと私を抱き締めた
でも私はちゃんと言いたかった

自分の口で、あんな事やってないって


「私は……」
「分かってるから、何も言うな」
「相川くん？」
「辛かったね、奈南美」


その言葉を聞いたとき、涙が溢れた
あの時の私の気持ちを相川くんが分かってくれた


「……相川くん、私、辛かった。苦しかった。だって、誰も私の事、信じてくれなかった。私、あんな、あんな事、やってないのに」


相川くんにしがみついて、声をあげて泣いた
相川くんはそんな私を抱き締めて、背中を優しく擦ってくれた


「分かってる。奈南美さんがあんな事してないって、分かってるから。だから、今日は思い切り泣いていいよ」


相川くんは私が泣き止むまで、ずっと抱き締めてくれた


ひとしきり泣いた後、私達は残りのピザを食べて、それぞれお風呂に入った
そしてベッドに入って、相川くんに抱き締められて眠った


明日から忙しくなる
だから今日はゆっくり眠った
大好きな人の腕の中で