可愛げのない彼女と爽やかな彼氏
社長から書類を受け取った木崎課長が、三浦常務に手渡した
私もその様子を見ていた
三浦常務は、その署名の量の多さにびっくりしていた
そして、その書類を持つ手がワナワナと震えだした
「バ、バカな……」
事の重大さが把握出来たらしく、汗が吹き出していた
「それを見る限り、本社勤務の女性社員がほぼ全員署名している。その女性社員達に辞められたら……多分うちの会社は大変なことになるだろうね。そんな事は、社長として見過ごす訳にはいかない」
社長のその言葉に三浦常務はガバッと立ち上がり、社長の机に書類を叩きつけた
「こんな書類で何が出来ると言うんだ!私は部屋に戻る!木崎!行くぞ!!」
部屋を出ていこうとする三浦常務
しかし、木崎課長はそれに着いて行かず、持っていた書類を社長に差し出した
「木崎課長、これは?」
「私が三浦常務付きの秘書になってからの、女性社員に対するセクハラ行為と思われる記録です。私が把握している分だけですが。その記録にある女性社員は、全てセクハラだったと認識しているようです」
木崎課長が提出書類も結構な量だった
一体この人は、何をしに会社に来ていたんだろうか
「木崎、お前……こんなことをして、ただで済むと思ってるのか!!」
「私はあなた付きの秘書ですが、あなたの部下ではありません」
「貴様……大体、何なんだ!こんなことをして何をしたいんだ!!進藤!そんな格好で会社に来るなんて、あの噂は本当だと言っているようなものじゃないか!!」
自分の分が悪くなったからか、矛先を私の方に向けてきた
私は溜め息をついて、社長に向き合った
「社長、以前流れていた私の噂、ご存知ですか?」
社長も溜め息をついて、ああと頷いた
「あの時の私は、マーケティング部担当の常務だったからね。知っているよ」
「そうでしたね。確かにその時、こんな格好をしていたら、何も言い訳はしません。ですが……」
「ああ、そんな格好はしたことはなかったな」
「ええ、その通りです。実際、今日私だと一目で気づいたのは、たった1人だけでした」
「その事を証明するために、その格好で出勤したと?」
「はい」
もちろん、三浦常務の好みの格好をして、天国から突き落とそうという気持ちもあったが、私がこの格好をして会社の人間がどれだけ気付くのか知りたかったのだ
「それで、私が女を武器にして仕事をしたことがないという証明になればと思いましたので」
「そうか。この署名は木崎課長の書類と一緒に預かっておく。今日は午後に大事な仕事が入っていてね。そうだろう?皆川部長」
社長が皆川部長に話を向けると、皆川部長は頷いた
「進藤係長」
社長は立ち上がって、私に頭を下げた
「社長!ちょっ…止めてください!」
私は慌てて頭を上げるように頼んだが、社長は頭を上げてくれなかった
「君の噂が流れていたとき、私はマーケティング部の担当常務だったにも関わらず、何も出来なかった。本当に申し訳なかった」
「社長……」
社長はやっと頭を上げて、私を見て苦笑した
「私が言うことじゃないかもしれないが……よく頑張ったな。これからも、会社の為に頑張って欲しい。君は、会社にとって必要な人材だ」
思わず涙が溢れた
ヤバイと思って、社長から顔を背けたが涙を止める事が出来なかった
「進藤係長、君と女性社員の思いは無駄にはしない。約束するよ」
社長がにっこり笑うのを見て、私も笑った
「よろしくお願いします」
そうして、社長に頭を下げて皆川部長と宮本くんと一緒に社長室を出ようとした時だった
「……こんなことをして、ただで済むと思ってるのか!!」
驚いて振り返ると、三浦常務が凄い形相で私に掴みかかろうとしていた
私は驚きの余り、動けないでいると、宮本くんが私の目の前で、三浦常務を投げ飛ばした
その一瞬の出来事に、私はもちろん投げられた三浦常務も、何が起こったか分からない顔をしていた
「進藤係長、大丈夫ですか?」
宮本くんにそう言われて我に返った私は頷いた
まだ起き上がれないでいる三浦常務に皆川部長が近付いてしゃがむ
「言うのを忘れていました。マーケティング部の宮本は、柔道の国体選手だったんですよ」
「皆川……」
「では、午後はよろしくお願いします。うちの相川がお世話になると思いますので……逃げないでくださいね」
「相川だって?そんな事は聞いてないぞ!」
三浦常務は床に転がったまま、木崎課長を睨んだ
木崎課長はわざとらしく、手帳を開いた
「……私はただ社長に『今日の午後はスケジュールを空けておけ』と言われていたので、その通りにしただけです」
「何だって……」
三浦常務は何かを言おうとしたが、社長がそれを遮った
「三浦常務、午後は私と一緒に同席するように。皆川部長たちはもう戻りなさい」
私達は社長に促されて社長室を出た
秘書室に入ると、女性陣が心配そうな顔をして見ていた
そう言えば、秘書室の女性陣も署名してくれてた……
私はにっこり笑った
それを見て、皆安心した顔をしてくれた
「進藤係長、行くぞ」
「はい」
そうして、私達は秘書室を後にした
海外事業部へ戻ると、相川くんが駆け寄ってきた
「奈南美さん、大丈夫でしたか?」
私はにっこり笑って、相川くんの胸を拳で軽く突いた
「後は任せたわよ。とどめを刺してきて」
「はい。頑張ります」
それを聞いた皆が歓声をあげた
皆川部長は相川くんを呼んで、打ち合わせ室に入って行く
宮本くんは皆に囲まれて、社長室であったことと、自分の武勇伝を興奮しながら話していた
私は席に戻ると、椅子に紙袋が置かれているのに気付いた
何だろうと思って見てみると、そこには見慣れた私のスーツとメモ用紙が入っていた
『俺の家に置いてあった奈南美さんのスーツです。早く着替えて下さいね。奈南美さんのその姿を、他の男どもに見られたくないので』
それでちょっと外出していたのかと思って、紙袋を持って女性専用の休憩室に行こうとしたら、打ち合わせ室のガラス越しに相川くんと目があった
私は紙袋を高く掲げて声を出さずに言った
『ありがとう。頑張って』
相川くんは私が何を言ったのか分かったらしく、ニコッと笑った
そして私は、スーツに着替える為、海外事業部を後にした
私もその様子を見ていた
三浦常務は、その署名の量の多さにびっくりしていた
そして、その書類を持つ手がワナワナと震えだした
「バ、バカな……」
事の重大さが把握出来たらしく、汗が吹き出していた
「それを見る限り、本社勤務の女性社員がほぼ全員署名している。その女性社員達に辞められたら……多分うちの会社は大変なことになるだろうね。そんな事は、社長として見過ごす訳にはいかない」
社長のその言葉に三浦常務はガバッと立ち上がり、社長の机に書類を叩きつけた
「こんな書類で何が出来ると言うんだ!私は部屋に戻る!木崎!行くぞ!!」
部屋を出ていこうとする三浦常務
しかし、木崎課長はそれに着いて行かず、持っていた書類を社長に差し出した
「木崎課長、これは?」
「私が三浦常務付きの秘書になってからの、女性社員に対するセクハラ行為と思われる記録です。私が把握している分だけですが。その記録にある女性社員は、全てセクハラだったと認識しているようです」
木崎課長が提出書類も結構な量だった
一体この人は、何をしに会社に来ていたんだろうか
「木崎、お前……こんなことをして、ただで済むと思ってるのか!!」
「私はあなた付きの秘書ですが、あなたの部下ではありません」
「貴様……大体、何なんだ!こんなことをして何をしたいんだ!!進藤!そんな格好で会社に来るなんて、あの噂は本当だと言っているようなものじゃないか!!」
自分の分が悪くなったからか、矛先を私の方に向けてきた
私は溜め息をついて、社長に向き合った
「社長、以前流れていた私の噂、ご存知ですか?」
社長も溜め息をついて、ああと頷いた
「あの時の私は、マーケティング部担当の常務だったからね。知っているよ」
「そうでしたね。確かにその時、こんな格好をしていたら、何も言い訳はしません。ですが……」
「ああ、そんな格好はしたことはなかったな」
「ええ、その通りです。実際、今日私だと一目で気づいたのは、たった1人だけでした」
「その事を証明するために、その格好で出勤したと?」
「はい」
もちろん、三浦常務の好みの格好をして、天国から突き落とそうという気持ちもあったが、私がこの格好をして会社の人間がどれだけ気付くのか知りたかったのだ
「それで、私が女を武器にして仕事をしたことがないという証明になればと思いましたので」
「そうか。この署名は木崎課長の書類と一緒に預かっておく。今日は午後に大事な仕事が入っていてね。そうだろう?皆川部長」
社長が皆川部長に話を向けると、皆川部長は頷いた
「進藤係長」
社長は立ち上がって、私に頭を下げた
「社長!ちょっ…止めてください!」
私は慌てて頭を上げるように頼んだが、社長は頭を上げてくれなかった
「君の噂が流れていたとき、私はマーケティング部の担当常務だったにも関わらず、何も出来なかった。本当に申し訳なかった」
「社長……」
社長はやっと頭を上げて、私を見て苦笑した
「私が言うことじゃないかもしれないが……よく頑張ったな。これからも、会社の為に頑張って欲しい。君は、会社にとって必要な人材だ」
思わず涙が溢れた
ヤバイと思って、社長から顔を背けたが涙を止める事が出来なかった
「進藤係長、君と女性社員の思いは無駄にはしない。約束するよ」
社長がにっこり笑うのを見て、私も笑った
「よろしくお願いします」
そうして、社長に頭を下げて皆川部長と宮本くんと一緒に社長室を出ようとした時だった
「……こんなことをして、ただで済むと思ってるのか!!」
驚いて振り返ると、三浦常務が凄い形相で私に掴みかかろうとしていた
私は驚きの余り、動けないでいると、宮本くんが私の目の前で、三浦常務を投げ飛ばした
その一瞬の出来事に、私はもちろん投げられた三浦常務も、何が起こったか分からない顔をしていた
「進藤係長、大丈夫ですか?」
宮本くんにそう言われて我に返った私は頷いた
まだ起き上がれないでいる三浦常務に皆川部長が近付いてしゃがむ
「言うのを忘れていました。マーケティング部の宮本は、柔道の国体選手だったんですよ」
「皆川……」
「では、午後はよろしくお願いします。うちの相川がお世話になると思いますので……逃げないでくださいね」
「相川だって?そんな事は聞いてないぞ!」
三浦常務は床に転がったまま、木崎課長を睨んだ
木崎課長はわざとらしく、手帳を開いた
「……私はただ社長に『今日の午後はスケジュールを空けておけ』と言われていたので、その通りにしただけです」
「何だって……」
三浦常務は何かを言おうとしたが、社長がそれを遮った
「三浦常務、午後は私と一緒に同席するように。皆川部長たちはもう戻りなさい」
私達は社長に促されて社長室を出た
秘書室に入ると、女性陣が心配そうな顔をして見ていた
そう言えば、秘書室の女性陣も署名してくれてた……
私はにっこり笑った
それを見て、皆安心した顔をしてくれた
「進藤係長、行くぞ」
「はい」
そうして、私達は秘書室を後にした
海外事業部へ戻ると、相川くんが駆け寄ってきた
「奈南美さん、大丈夫でしたか?」
私はにっこり笑って、相川くんの胸を拳で軽く突いた
「後は任せたわよ。とどめを刺してきて」
「はい。頑張ります」
それを聞いた皆が歓声をあげた
皆川部長は相川くんを呼んで、打ち合わせ室に入って行く
宮本くんは皆に囲まれて、社長室であったことと、自分の武勇伝を興奮しながら話していた
私は席に戻ると、椅子に紙袋が置かれているのに気付いた
何だろうと思って見てみると、そこには見慣れた私のスーツとメモ用紙が入っていた
『俺の家に置いてあった奈南美さんのスーツです。早く着替えて下さいね。奈南美さんのその姿を、他の男どもに見られたくないので』
それでちょっと外出していたのかと思って、紙袋を持って女性専用の休憩室に行こうとしたら、打ち合わせ室のガラス越しに相川くんと目があった
私は紙袋を高く掲げて声を出さずに言った
『ありがとう。頑張って』
相川くんは私が何を言ったのか分かったらしく、ニコッと笑った
そして私は、スーツに着替える為、海外事業部を後にした