可愛げのない彼女と爽やかな彼氏
「何で……」
私が呆然としていると、社長が口を開いた
「進藤課長、紹介するよ。彼女は『shindo』の社長、進藤南美さん。数年前までは本当に小さな化粧品会社だったのに、今ではテレビ通販で大当たり。飛ぶ鳥を落とす勢いの注目の会社だ。実は、私達夫婦と進藤社長は大学時代の同級生なんだよ」
「そうなの。でも南美は1年休学してたから、卒業は私達より1年後なんだけど」
社長夫人の貴子さんが母に笑顔を向けた
「……今日の招待客のリストにはこの方の名前はありませんでしたが?」
「私が個人的に呼んだんだ。それで相川課長に案内役を頼んだという訳だよ」
「何故ですか?海外事業部とは関係ないでしょう?」
「その方がいいと判断したからだよ、進藤課長。相川課長には私から命令した」
吉田社長は自分の意見を通す時は、相手に有無を言わせない威圧感を感じさせる
私は溜め息をついた
「悪趣味ですね、社長」
「何とでも言えばいい。さて、そろそろ時間だな。貴子、行こうか。南美とは後でゆっくり話せるから。君達はしばらく3人で話しなさい」
社長夫妻は連れ立って控え室を出て行った
3人だけ残されて、重苦しい空気が流れる
そんな中、口を開いたのは母だった
「久しぶりね、奈南美。あなたが家を出てからだから、10年ぶりぐらいかしら?」
「そうですね。吉田社長と同級生なんて知りませんでした」
「そうでしょうね、私は自分の事をあなたに話した事はなかったもの」
「何故、今日ここに?本当に吉田社長が?」
「ええ」
母は小さく息を吐いて、話し始めた
2週間ほど前、突然吉田社長から母の会社に電話がかかってきたと言うのだ
「F社の創立記念パーティーがあるんだが、南美も来ないか?そうそう、私の新しい秘書を紹介したいんだ。進藤奈南美と言って、とても優秀な秘書でね、秘書室課長なんだ。どうやら、海外事業部課長の相川という男ともうすぐ結婚するみたいだよ。南美がよければ、その相川を案内役につけるけど、どうする?」
と……
「びっくりしたわ。私はあなたを産んだ事を同級生の誰にも言ってなかった。それが突然、吉田社長……哲也から電話がかかってきた。卒業以来会ってもなかったのに。でも哲也にしてみれば、自分の秘書の家族構成を調べるくらい、容易いことなのかもしれないわね」
確かにそうかもしれない
F社の社長をしてるのだ
怪しい人間を自分の秘書にはしないだろう
「それでノコノコやってきたんですか?」
「奈南美さん……」
「相川くんは黙ってて。これは私とこの人の問題。それにあなたにも聞きたいことがあるの。ちゃんと後で説明してもらうから」
思わずキツく言ってしまって、あっと思ったが、相川くんは溜め息をついて、分かったよ言っただけで後は何も言わなかった
「奈南美。あなた、家政婦の佳苗さんを覚えてる?」
いきなりの母の言葉に驚いたが、ええと頷いた
忘れるはずがない
家政婦の佳苗さんは、いつも1人でいた私にとって、母よりもなついた人で、母よりも家族と思ってる人だったから
私が家を出る時も、結局最後は私を抱き締めて「体に気を付けるんですよ」と泣きながら言ってくれた人だ
「佳苗さんがどうしたんですか?」
「今、体を壊して入院してるの。あなたに会いたがってる。この病院に入院してるわ。お見舞いに行ってあげてほしいの」
そう言って母は私にメモを渡した
「用件はそれだけよ。仕事の邪魔して悪かったわね。私もパーティー会場に戻るわ。相川さん、行きましょうか」
「いや、でも……」
「いいんです、もう。奈南美」
母に呼ばれて母の顔を見た
そこには、なんだか悲しそうな顔をした母がいた
「あなた、少し疲れてるみたい。ちゃんと体調管理はしっかりしなさい。あなたが倒れて困るのは吉田社長なのよ」
「言いたい事はそれだけですか?」
「……もう行くわ、それじゃ」
母は振り返りもせず部屋を出て行った
相川くんは私を心配そうに見て、一瞬私をぎゅっと抱き締めて母に続いて出て行った
1人残された私は、母に渡されたメモをただ見ていた
「用件はそれだけ、か……何も変わってなかったな。あの人……」
そんな事を思ったら、涙が溢れて止まらなくなった
何も期待なんかしていなかったのに
今更、何も……
「健次……私を1人にしないでよ。そばにいてよ。何で居ないの?」
ひとしきり泣いた
声を殺して、1人で
だって今、相川くんがそばにいない
1人で泣くしかなかった
私が呆然としていると、社長が口を開いた
「進藤課長、紹介するよ。彼女は『shindo』の社長、進藤南美さん。数年前までは本当に小さな化粧品会社だったのに、今ではテレビ通販で大当たり。飛ぶ鳥を落とす勢いの注目の会社だ。実は、私達夫婦と進藤社長は大学時代の同級生なんだよ」
「そうなの。でも南美は1年休学してたから、卒業は私達より1年後なんだけど」
社長夫人の貴子さんが母に笑顔を向けた
「……今日の招待客のリストにはこの方の名前はありませんでしたが?」
「私が個人的に呼んだんだ。それで相川課長に案内役を頼んだという訳だよ」
「何故ですか?海外事業部とは関係ないでしょう?」
「その方がいいと判断したからだよ、進藤課長。相川課長には私から命令した」
吉田社長は自分の意見を通す時は、相手に有無を言わせない威圧感を感じさせる
私は溜め息をついた
「悪趣味ですね、社長」
「何とでも言えばいい。さて、そろそろ時間だな。貴子、行こうか。南美とは後でゆっくり話せるから。君達はしばらく3人で話しなさい」
社長夫妻は連れ立って控え室を出て行った
3人だけ残されて、重苦しい空気が流れる
そんな中、口を開いたのは母だった
「久しぶりね、奈南美。あなたが家を出てからだから、10年ぶりぐらいかしら?」
「そうですね。吉田社長と同級生なんて知りませんでした」
「そうでしょうね、私は自分の事をあなたに話した事はなかったもの」
「何故、今日ここに?本当に吉田社長が?」
「ええ」
母は小さく息を吐いて、話し始めた
2週間ほど前、突然吉田社長から母の会社に電話がかかってきたと言うのだ
「F社の創立記念パーティーがあるんだが、南美も来ないか?そうそう、私の新しい秘書を紹介したいんだ。進藤奈南美と言って、とても優秀な秘書でね、秘書室課長なんだ。どうやら、海外事業部課長の相川という男ともうすぐ結婚するみたいだよ。南美がよければ、その相川を案内役につけるけど、どうする?」
と……
「びっくりしたわ。私はあなたを産んだ事を同級生の誰にも言ってなかった。それが突然、吉田社長……哲也から電話がかかってきた。卒業以来会ってもなかったのに。でも哲也にしてみれば、自分の秘書の家族構成を調べるくらい、容易いことなのかもしれないわね」
確かにそうかもしれない
F社の社長をしてるのだ
怪しい人間を自分の秘書にはしないだろう
「それでノコノコやってきたんですか?」
「奈南美さん……」
「相川くんは黙ってて。これは私とこの人の問題。それにあなたにも聞きたいことがあるの。ちゃんと後で説明してもらうから」
思わずキツく言ってしまって、あっと思ったが、相川くんは溜め息をついて、分かったよ言っただけで後は何も言わなかった
「奈南美。あなた、家政婦の佳苗さんを覚えてる?」
いきなりの母の言葉に驚いたが、ええと頷いた
忘れるはずがない
家政婦の佳苗さんは、いつも1人でいた私にとって、母よりもなついた人で、母よりも家族と思ってる人だったから
私が家を出る時も、結局最後は私を抱き締めて「体に気を付けるんですよ」と泣きながら言ってくれた人だ
「佳苗さんがどうしたんですか?」
「今、体を壊して入院してるの。あなたに会いたがってる。この病院に入院してるわ。お見舞いに行ってあげてほしいの」
そう言って母は私にメモを渡した
「用件はそれだけよ。仕事の邪魔して悪かったわね。私もパーティー会場に戻るわ。相川さん、行きましょうか」
「いや、でも……」
「いいんです、もう。奈南美」
母に呼ばれて母の顔を見た
そこには、なんだか悲しそうな顔をした母がいた
「あなた、少し疲れてるみたい。ちゃんと体調管理はしっかりしなさい。あなたが倒れて困るのは吉田社長なのよ」
「言いたい事はそれだけですか?」
「……もう行くわ、それじゃ」
母は振り返りもせず部屋を出て行った
相川くんは私を心配そうに見て、一瞬私をぎゅっと抱き締めて母に続いて出て行った
1人残された私は、母に渡されたメモをただ見ていた
「用件はそれだけ、か……何も変わってなかったな。あの人……」
そんな事を思ったら、涙が溢れて止まらなくなった
何も期待なんかしていなかったのに
今更、何も……
「健次……私を1人にしないでよ。そばにいてよ。何で居ないの?」
ひとしきり泣いた
声を殺して、1人で
だって今、相川くんがそばにいない
1人で泣くしかなかった