可愛げのない彼女と爽やかな彼氏
おやつを食べた後は、隆介くんも鈴音ちゃんも眠ってしまい、大人達はお茶を飲みながら喋っていた
「相川くんの実家って、居酒屋なの?」
「そう、小汚ない小さな居酒屋なんだ。両親が2人で切り盛りしてる。奈南美さんといつも行ってた居酒屋に通ってたのは、実家の店と雰囲気が似てたからなんだ」
「そうなんだ」
部長と祥ちゃんも興味深く聞いている
「本当に隆介ぐらいの時は、うちの父ちゃんは何で他の父ちゃんと違うんだろうってよく思ってた。でも、両親には聞けなくて。そんな事を思ってた時、俺が6年生の時だったかな?授業参観に父親が来たんだ」
「お父さんが?」
「うん。いつもは母親が来てたんだけど、その日熱出してさ。父親も店の仕込みがあるから行けそうにないって言ってから、別に来なくてもいいって言ってたのに……来たんだ、父ちゃんが。仕事の時にいつも着てる作務衣着て……」
相川くんはその時の事を思い出したのかふっと笑った
「もちろんそんな格好してるのは、父ちゃんだけ。回りは綺麗な格好した母親ばかり。クラスメートは父ちゃん見てクスクス笑ってる。俺、本当に恥ずかしくて、ずっと下を向いてた。多分父ちゃんは、仕込みの間を縫って来たんだろうな。しばらくいたけど、授業が終わる前に帰って行ったよ」
そこまで言うと、相川くんは小さく息を吐いた
私は隣にいる相川くんの手に自分の手を重ねた
どうしていいか分からなかったから
「授業が終わったら、皆が『あれは誰のお父さんだ』って騒ぎ出して、俺は何も言わなかった。家に帰るなり父ちゃんに……」
「相川くん」
相川くんは私を見て、大丈夫と言って続けた
「父ちゃんに言ったんだ『何で来たんだよ!来なくていいって言ってたじゃないか!しかもあんな格好で。どうせ来るなら、スーツ着て来いよ。恥ずかしいだろ!皆に笑われたんだからな!』って、大声で。そしたらさ」
相川くんが、突然ははっと笑った
突然の事に私達は目を丸くした
「ごめん。あの時の事思い出して……俺が、父ちゃんにそう言った後、突然母ちゃんが部屋に入ってきたんだ。熱が出て動けないって言ってた母ちゃんが、鬼みたいな顔して。そして俺のところまで来て俺を殴った。しかも拳で」
「え?」
「は?」
「拳で、か?」
「ええ、それも思いっきり力いっぱい。俺、壁まで吹っ飛びましたから」
相川くんは左頬を擦りながら笑っている
「そしてこう言ったんだ。『誰のお陰でそこまで大きくなって、ご飯が食べられてると思ってるんだ!父ちゃんの事を恥ずかしいなんて言う子を育てた覚えはないよ!父ちゃんに謝りなさい!』って。俺、殴られて痛かったけど、でもあの時、母ちゃんの方が痛そうな顔してた。あれには参ったよ。それが忘れられない」
「相川くん」
「でも俺は素直に謝れなくて、ただ泣いてた。痛くて悔しくて情けなくて。そして父ちゃんが言ったんだ。『健次、しばらく店を手伝え』って」
相川くんは苦笑しながら続けた
「最初は意味分かんねえって思ったけど、手伝うしかないから店を手伝ったよ。夜の9時までひたすら皿洗い。何でこんな事って思ったけど、父ちゃんに酷いこと言ったのと、母ちゃんにあんな顔させた事が俺の中で罪悪感でいっぱいで」
「それで、手伝ってたんだ?」
「うん。でもそのうち、不思議な事に気付いたんだ」
「不思議なこと?」
私が首を傾げて聞くと、相川くんは頷いた
「お客がみんな笑顔で帰って行くんだ。店に入って来た時は、どんなに思い詰めた顔してても、帰る時は笑顔になってるんだ」
「笑顔……」
「そう、笑顔。なんでかなあって思ってたら、答えは簡単。父ちゃんだったよ」
「お父さん?」
「うん。やっぱり客商売で培ってきたものなんだろうけど、人の気持ちに敏感なんだ。よく見てたら、思い詰めてるような客や、ちょっと疲れてるような客に、父ちゃんから話し掛けて、何を悩んでるか自然に聞き出して、父ちゃんは相槌を打って聞いてるだけなんだ。でも、こう言って帰って行くんだ。『大将ありがとう。聞いてくれて嬉しかった。また来るよ』って」
皆川部長はそれは凄いなと呟き、祥ちゃんも関心しながら聞いている
「だから今でも、仕事に行き詰まった時には実家に帰って、父ちゃんを観察してる。特に、皆川部長の部下になってからは」
「何だって?」
皆川部長は相川くんを軽く睨むと、相川くんは軽く笑った
「『俺の父ちゃん格好いいな』って思うようになるまで、そんなに時間が掛からなかった。それからは、父ちゃんの事を恥ずかしいなんて思ったことはなかった」
「相川くんの実家って、居酒屋なの?」
「そう、小汚ない小さな居酒屋なんだ。両親が2人で切り盛りしてる。奈南美さんといつも行ってた居酒屋に通ってたのは、実家の店と雰囲気が似てたからなんだ」
「そうなんだ」
部長と祥ちゃんも興味深く聞いている
「本当に隆介ぐらいの時は、うちの父ちゃんは何で他の父ちゃんと違うんだろうってよく思ってた。でも、両親には聞けなくて。そんな事を思ってた時、俺が6年生の時だったかな?授業参観に父親が来たんだ」
「お父さんが?」
「うん。いつもは母親が来てたんだけど、その日熱出してさ。父親も店の仕込みがあるから行けそうにないって言ってから、別に来なくてもいいって言ってたのに……来たんだ、父ちゃんが。仕事の時にいつも着てる作務衣着て……」
相川くんはその時の事を思い出したのかふっと笑った
「もちろんそんな格好してるのは、父ちゃんだけ。回りは綺麗な格好した母親ばかり。クラスメートは父ちゃん見てクスクス笑ってる。俺、本当に恥ずかしくて、ずっと下を向いてた。多分父ちゃんは、仕込みの間を縫って来たんだろうな。しばらくいたけど、授業が終わる前に帰って行ったよ」
そこまで言うと、相川くんは小さく息を吐いた
私は隣にいる相川くんの手に自分の手を重ねた
どうしていいか分からなかったから
「授業が終わったら、皆が『あれは誰のお父さんだ』って騒ぎ出して、俺は何も言わなかった。家に帰るなり父ちゃんに……」
「相川くん」
相川くんは私を見て、大丈夫と言って続けた
「父ちゃんに言ったんだ『何で来たんだよ!来なくていいって言ってたじゃないか!しかもあんな格好で。どうせ来るなら、スーツ着て来いよ。恥ずかしいだろ!皆に笑われたんだからな!』って、大声で。そしたらさ」
相川くんが、突然ははっと笑った
突然の事に私達は目を丸くした
「ごめん。あの時の事思い出して……俺が、父ちゃんにそう言った後、突然母ちゃんが部屋に入ってきたんだ。熱が出て動けないって言ってた母ちゃんが、鬼みたいな顔して。そして俺のところまで来て俺を殴った。しかも拳で」
「え?」
「は?」
「拳で、か?」
「ええ、それも思いっきり力いっぱい。俺、壁まで吹っ飛びましたから」
相川くんは左頬を擦りながら笑っている
「そしてこう言ったんだ。『誰のお陰でそこまで大きくなって、ご飯が食べられてると思ってるんだ!父ちゃんの事を恥ずかしいなんて言う子を育てた覚えはないよ!父ちゃんに謝りなさい!』って。俺、殴られて痛かったけど、でもあの時、母ちゃんの方が痛そうな顔してた。あれには参ったよ。それが忘れられない」
「相川くん」
「でも俺は素直に謝れなくて、ただ泣いてた。痛くて悔しくて情けなくて。そして父ちゃんが言ったんだ。『健次、しばらく店を手伝え』って」
相川くんは苦笑しながら続けた
「最初は意味分かんねえって思ったけど、手伝うしかないから店を手伝ったよ。夜の9時までひたすら皿洗い。何でこんな事って思ったけど、父ちゃんに酷いこと言ったのと、母ちゃんにあんな顔させた事が俺の中で罪悪感でいっぱいで」
「それで、手伝ってたんだ?」
「うん。でもそのうち、不思議な事に気付いたんだ」
「不思議なこと?」
私が首を傾げて聞くと、相川くんは頷いた
「お客がみんな笑顔で帰って行くんだ。店に入って来た時は、どんなに思い詰めた顔してても、帰る時は笑顔になってるんだ」
「笑顔……」
「そう、笑顔。なんでかなあって思ってたら、答えは簡単。父ちゃんだったよ」
「お父さん?」
「うん。やっぱり客商売で培ってきたものなんだろうけど、人の気持ちに敏感なんだ。よく見てたら、思い詰めてるような客や、ちょっと疲れてるような客に、父ちゃんから話し掛けて、何を悩んでるか自然に聞き出して、父ちゃんは相槌を打って聞いてるだけなんだ。でも、こう言って帰って行くんだ。『大将ありがとう。聞いてくれて嬉しかった。また来るよ』って」
皆川部長はそれは凄いなと呟き、祥ちゃんも関心しながら聞いている
「だから今でも、仕事に行き詰まった時には実家に帰って、父ちゃんを観察してる。特に、皆川部長の部下になってからは」
「何だって?」
皆川部長は相川くんを軽く睨むと、相川くんは軽く笑った
「『俺の父ちゃん格好いいな』って思うようになるまで、そんなに時間が掛からなかった。それからは、父ちゃんの事を恥ずかしいなんて思ったことはなかった」