可愛げのない彼女と爽やかな彼氏
私とお母さんは、喋りながら一緒に後片付けをしていた
「今日はごちそうさまでした。ありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ。来てくれてありがとうね。健次から綺麗な人だとは聞いてたけど、予想以上に綺麗な人でびっくりしたよ」
「そ、そんな!」
「それに、健次が『会わせたい人がいる』って言ってきたのも初めてで嬉しかったんだよ?だから、奈南美ちゃんと会いたかったんだ、本当に。……もうこれくらいでいいから、お茶にしようかね」
私とお母さんはお茶を持って、居間に入った
でもそこには誰もいなくて、首を傾げていると、お母さんがふふっと笑って言った
「多分、父ちゃんが包丁を研いでるんだよ」
「え?」
「何でか昔から健次は父ちゃんが包丁を研いでると、その姿をじっと見てるんだ。だから、父ちゃんは健次が帰って来たときは絶対包丁を研ぐんだよ。やっぱり格好つけたいんだねぇ、息子には。調理場にいるはずだから、見に行っておいで」
お母さんにそう言われて、調理場の方に行った
そこには、真剣な顔をして包丁を研いでるお父さんと、その姿をちょっと離れた所に腰かけて見ている相川くんの後ろ姿、親子の姿があった
包丁を研ぐ小気味いい音
真剣なお父さんの横顔
それを静かに見ている相川くん
私はその2人の姿を見て、何故か涙が溢れそうになった
そこには、無言の親子の絆があったから……
私は声をかけることもなく、居間へ戻った
お母さんは今にも泣きそうな顔をしている私を見て、少しびっくりしていたけどすぐに微笑んで、こっちいらっしゃいと言ってくれた
私がお母さんの隣に座ると、お母さんは私の頭を撫でてくれた
「奈南美ちゃん。あんたのお母さんのこと、健次から少し聞いてるんだ」
「そう、なんですか」
お母さんはまだ優しく頭を撫でてくれている
「あの、お母さん」
「ん?」
「私、健次さんと結婚しても構いませんか?」
「え?」
お母さんは目を丸くして私を見ている
「健次さんから話を聞いてるなら、分かると思いますが、母親との仲は最悪ですし、それに……」
「それに?なんだい?」
「それに、父親が誰だか知らないんです。そんな女が息子さんと結婚してもいいのかって」
そう言って私は俯いた
お母さんの顔を見れなかったから
すると、お母さんは私を優しく抱き締めた
私がびっくりしていると、背中をポンポンと叩いた
「奈南美ちゃん。お願いがあるんだ。聞いてくれるかい?」
「お願い、ですか?」
「そう」
お母さんは腕を緩めて私を真っ直ぐ見て言った
「健次のお嫁さんになっておくれ」
私は心底びっくりした
何も言えないでいると、お母さんは優しい笑顔で言った
「私も客商売してるから、初対面でも大体どんな人間なのか分かるんだ。奈南美ちゃん、あんたはいい子だよ。だから、何も心配しないで家にお嫁に来なさい」
ん?とお母さんは私に言った
私はただ泣きながら頷いてこう言うのが精一杯だった
「よろしく、お願いします……」
お母さんは、はいと言ってまた抱き締めてくれた
優しくて、温かくて、ずっとここにいたいと思えるような、腕の中だった
そろそろ帰ろうと玄関を出て車へ向かっていると、お母さんが相川くんを呼び止めて、耳元で何やら言っている
相川くんは「ちゃんと考えてるから、心配すんなって」と鬱陶しそうにしていると、お母さんは相川くんの背中をバシッと叩いた
「しゃんとするんだよ!男なんだから!」
「分かったよ!痛ってーな!」
私が唖然としていると、お父さんが私にこそっと言った
「うちの女房、馬鹿力なんだ。多分うちの家族で一番力持ちだな」
お父さんの言葉に思わず吹き出すと、お父さんもニカッと笑った
「ああもう、帰るよ。奈南美さん、行こう」
「あ、うん。お父さん、お母さん。お邪魔しました。また来ますから」
私が頭を下げるとお母さんが言った
「奈南美ちゃん、いつでも『ただいま』って帰っておいで。いいね?」
『ただいま』って……
お母さんもお父さんもニコニコ笑っていた
私は笑顔で頷いた
「はい。そうします」
そう言って、私達は相川くんの実家を後にした
「奈南美さん、疲れてない?大丈夫?」
「うん、大丈夫。相川くんの家族ってみんな温かいね」
「奈南美さんも、その家族になるんだよ」
「そっか」
「奈南美さん?」
「ん?」
「今日は寝かせないから、覚悟して」
「は?」
運転中の相川くんを見ると、物凄く飄々としている
今のは幻聴?
「昨日から我慢してたんだ。あんな綺麗なドレス着て、俺が何とも思わないとでも?」
「いや、だって」
「ドレスのまんま寝ちゃったから、パジャマに着替えさせようとしたけど、このまま脱がせたら我慢出来そうになくて、そのままにしてたんだよね、実は」
相川くんの言葉に私はただ口をパクパクさせるしかない
我慢してたって
寝かせないって
赤信号で止まると、満面の笑顔で私を見て言った
「明日は日曜日だし、時間はゆっくりあるから、楽しみだ」
その時の私の顔は、引きつっていたに違いない
「今日はごちそうさまでした。ありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ。来てくれてありがとうね。健次から綺麗な人だとは聞いてたけど、予想以上に綺麗な人でびっくりしたよ」
「そ、そんな!」
「それに、健次が『会わせたい人がいる』って言ってきたのも初めてで嬉しかったんだよ?だから、奈南美ちゃんと会いたかったんだ、本当に。……もうこれくらいでいいから、お茶にしようかね」
私とお母さんはお茶を持って、居間に入った
でもそこには誰もいなくて、首を傾げていると、お母さんがふふっと笑って言った
「多分、父ちゃんが包丁を研いでるんだよ」
「え?」
「何でか昔から健次は父ちゃんが包丁を研いでると、その姿をじっと見てるんだ。だから、父ちゃんは健次が帰って来たときは絶対包丁を研ぐんだよ。やっぱり格好つけたいんだねぇ、息子には。調理場にいるはずだから、見に行っておいで」
お母さんにそう言われて、調理場の方に行った
そこには、真剣な顔をして包丁を研いでるお父さんと、その姿をちょっと離れた所に腰かけて見ている相川くんの後ろ姿、親子の姿があった
包丁を研ぐ小気味いい音
真剣なお父さんの横顔
それを静かに見ている相川くん
私はその2人の姿を見て、何故か涙が溢れそうになった
そこには、無言の親子の絆があったから……
私は声をかけることもなく、居間へ戻った
お母さんは今にも泣きそうな顔をしている私を見て、少しびっくりしていたけどすぐに微笑んで、こっちいらっしゃいと言ってくれた
私がお母さんの隣に座ると、お母さんは私の頭を撫でてくれた
「奈南美ちゃん。あんたのお母さんのこと、健次から少し聞いてるんだ」
「そう、なんですか」
お母さんはまだ優しく頭を撫でてくれている
「あの、お母さん」
「ん?」
「私、健次さんと結婚しても構いませんか?」
「え?」
お母さんは目を丸くして私を見ている
「健次さんから話を聞いてるなら、分かると思いますが、母親との仲は最悪ですし、それに……」
「それに?なんだい?」
「それに、父親が誰だか知らないんです。そんな女が息子さんと結婚してもいいのかって」
そう言って私は俯いた
お母さんの顔を見れなかったから
すると、お母さんは私を優しく抱き締めた
私がびっくりしていると、背中をポンポンと叩いた
「奈南美ちゃん。お願いがあるんだ。聞いてくれるかい?」
「お願い、ですか?」
「そう」
お母さんは腕を緩めて私を真っ直ぐ見て言った
「健次のお嫁さんになっておくれ」
私は心底びっくりした
何も言えないでいると、お母さんは優しい笑顔で言った
「私も客商売してるから、初対面でも大体どんな人間なのか分かるんだ。奈南美ちゃん、あんたはいい子だよ。だから、何も心配しないで家にお嫁に来なさい」
ん?とお母さんは私に言った
私はただ泣きながら頷いてこう言うのが精一杯だった
「よろしく、お願いします……」
お母さんは、はいと言ってまた抱き締めてくれた
優しくて、温かくて、ずっとここにいたいと思えるような、腕の中だった
そろそろ帰ろうと玄関を出て車へ向かっていると、お母さんが相川くんを呼び止めて、耳元で何やら言っている
相川くんは「ちゃんと考えてるから、心配すんなって」と鬱陶しそうにしていると、お母さんは相川くんの背中をバシッと叩いた
「しゃんとするんだよ!男なんだから!」
「分かったよ!痛ってーな!」
私が唖然としていると、お父さんが私にこそっと言った
「うちの女房、馬鹿力なんだ。多分うちの家族で一番力持ちだな」
お父さんの言葉に思わず吹き出すと、お父さんもニカッと笑った
「ああもう、帰るよ。奈南美さん、行こう」
「あ、うん。お父さん、お母さん。お邪魔しました。また来ますから」
私が頭を下げるとお母さんが言った
「奈南美ちゃん、いつでも『ただいま』って帰っておいで。いいね?」
『ただいま』って……
お母さんもお父さんもニコニコ笑っていた
私は笑顔で頷いた
「はい。そうします」
そう言って、私達は相川くんの実家を後にした
「奈南美さん、疲れてない?大丈夫?」
「うん、大丈夫。相川くんの家族ってみんな温かいね」
「奈南美さんも、その家族になるんだよ」
「そっか」
「奈南美さん?」
「ん?」
「今日は寝かせないから、覚悟して」
「は?」
運転中の相川くんを見ると、物凄く飄々としている
今のは幻聴?
「昨日から我慢してたんだ。あんな綺麗なドレス着て、俺が何とも思わないとでも?」
「いや、だって」
「ドレスのまんま寝ちゃったから、パジャマに着替えさせようとしたけど、このまま脱がせたら我慢出来そうになくて、そのままにしてたんだよね、実は」
相川くんの言葉に私はただ口をパクパクさせるしかない
我慢してたって
寝かせないって
赤信号で止まると、満面の笑顔で私を見て言った
「明日は日曜日だし、時間はゆっくりあるから、楽しみだ」
その時の私の顔は、引きつっていたに違いない