可愛げのない彼女と爽やかな彼氏
『奈南ちゃんへ
突然の手紙、驚いたでしょう?
でもどうしても、奈南ちゃんに伝えたいことがあって
本当は奈南ちゃんの顔を見て話したかったけど、上手く話せる自信がなかったので、手紙を書くことにしました。
先日は、母の葬儀に来てくれてありがとう。
奈南ちゃんが握ってくれた手の温もりを、まだ覚えています。
母が倒れてから3日間は、母の冷たい手を握っていたから、奈南ちゃんの温もりが、私の心に染みました。
生きてるって、こんなに温かいんだと思いました。
私の母は、父が亡くなって、女手1つで私と兄と弟を育ててくれた。
その3人ともそれぞれ家庭を持ち、やっと母に親孝行が出来ると思ってた矢先の母の死でした。
まさか私達3人とも、こんなに早く母が逝くなんて思ってなかったから、「何もしてあげられなかったね」と、兄妹3人で言ってました。
もっと、優しくしてあげればよかったと、本当に後悔しています。
だから、奈南ちゃんには後悔してほしくない。
奈南ちゃんは、お母さんに言いたいことや、聞きたいことがたくさんあるんじゃないの?
でもそれが、怖くて出来ないんじゃないの?
自分が傷付くのが怖いんじゃないの?
お母さんとの関係が、今のままでいいと思ってる?
思ってないよね?
だって、私が知ってる奈南ちゃんは、そんな人じゃないもんね。
奈南ちゃん、親がいつまでも生きてるって思ってたら大間違いだよ?
それは、私達もそう。
いつ誰が死んじゃうなんて、誰にも分からない。
母が死んで、私が1番思ったことは、後悔するような人生は送りたくないって事です。
もしそんな人生を送ったら、死んでも死にきれないと思うから
だから奈南ちゃん。
私は奈南ちゃんに、お母さんとぶつかって欲しい。
もしかしたら、傷付くかもしれない。
辛い事を思い出すかもしれない。
でもそれで、奈南ちゃんが傷付いたとしても、1人じゃないから。
私も慎一郎さんも美智子も居る。
それに何より、相川さんが居るでしょ?
奈南ちゃんを絶対に1人になんかさせないから、それだけは安心してください。
何だか、自分でも何書いてるのかめちゃくちゃなんだけど、私の言いたいこと、何となく伝わったかな?
奈南ちゃん、大好きだよ。
これからも、私の親友でいてね?
最後に1つだけ
お母さんが元気で生きている奈南ちゃんが、とても羨ましいです。
皆川祥子 』
手紙を読み終えた時、私は号泣していた
相川くんが隣に座って、私の頭を撫でているのにも気付かないくらいに
私は携帯を手に取り、祥ちゃんに電話をかけた
「祥ちゃん?」
「あ、奈南ちゃん……」
「馬鹿じゃないの?」
「えぇ?」
「何で、手紙……自分が辛い時に……何やってんの?」
「だって」
祥ちゃんはふふっと笑ってこう言った
「今じゃないと伝わらないかなぁって思ったから」
私は思わず声を上げて笑った
電話の向こうにいる祥ちゃんも笑っている
相川くんは目を丸くしていたけど
「ちゃんと伝わったよ。効果抜群。これで伝わらなかったら、私がどっかおかしいぐらいにね」
「そう?」
「ええ。だって、私の今の顔どうなってると思う?涙でボロボロ、鼻水も垂れてるし、明日になったら目が腫れちゃうんだわ。仕事だって言うのに」
「あら、じゃあ明日は慎一郎さんに頼んで奈南ちゃんの写メを送ってもらおうかな?」
「止めてよ、もう」
ちらっと相川くんを見ると、にっこり笑ってティッシュの箱を私に渡してくれた
「祥ちゃん」
「ん?」
「ありがとう。私、聞いてみるよ、あの人に。何で私を産んだのか。何で私は預けられなきゃいけなかったのか。何で1度も優しくしてもらえなかったのか。私の父親は誰なのか。ちゃんと聞いてみる」
「奈南ちゃん……」
私は小さく笑いながら、相川くんに寄りかかった
「それでもし、私が傷付いても、私は1人じゃないんでしょ?」
相川くんが私をぎゅっと抱き締める
祥ちゃんも、そうだよと言ってくれた
「奈南ちゃんは1人じゃない。奈南ちゃんが嫌がっても、私はずっと奈南ちゃんの親友でいるから、覚悟してね?」
「わぁ私、今すごく熱烈な告白された?」
「そうよ?ありがたいでしょ?」
お互い吹き出して笑う
「祥ちゃん、ありがとう」
「どう致しまして」
「大好きよ」
「奈南ちゃん?」
「お母さんを亡くしたばかりなのに、祥ちゃんの方が辛いはずなのに、ごめんね」
祥ちゃんが言葉を詰まらせた
「奈南ちゃん」
「ん?」
「私……お母さんに何もしてあげられなかった……あんなに苦労して、育ててくれたのに。私、もっと、優しくしてあげればよかったよ……っ」
「祥ちゃん、泣きなよ。思いっきり泣いていいから。お母さんが亡くなったんだよ?泣いていいんだよ?」
私がそう言うと、祥ちゃんは大声をあげて泣き出した
多分、これを慟哭と言うんだろう
しばらくすると、皆川部長が電話口に出た
ただ一言、ありがとうと言って部長は電話を切った
それは今日、部長と仕事をしている時に言われた事
「祥子、泣かないんだ」
「え?」
「涙は流すんだよ。静かにね。でも『大丈夫だよ』って言って、無理して笑うんだ。だからうちの両親も心配して、しばらく実家に居るようにって……思いっきり泣いていいのに……」
よかった
祥ちゃん、思い切り泣けた
私は電話を切ると、抱き締めてくれている相川くんの背中に腕を回した
「祥ちゃん、泣いてた」
「そう。奈南美さんは、大丈夫?」
「うん。でも、しばらくこのままでいて?」
さらにぎゅっと抱き締めてくれた
「相川くん?」
「ん?」
「あの人と話す時、一緒に居てくれる?」
「頼まれなくても、勝手に奈南美さんの隣に居るよ」
当たり前のよう私の隣に居てくれると言ってくれた
幸せだと、この人と離れたくないと、心から思った
突然の手紙、驚いたでしょう?
でもどうしても、奈南ちゃんに伝えたいことがあって
本当は奈南ちゃんの顔を見て話したかったけど、上手く話せる自信がなかったので、手紙を書くことにしました。
先日は、母の葬儀に来てくれてありがとう。
奈南ちゃんが握ってくれた手の温もりを、まだ覚えています。
母が倒れてから3日間は、母の冷たい手を握っていたから、奈南ちゃんの温もりが、私の心に染みました。
生きてるって、こんなに温かいんだと思いました。
私の母は、父が亡くなって、女手1つで私と兄と弟を育ててくれた。
その3人ともそれぞれ家庭を持ち、やっと母に親孝行が出来ると思ってた矢先の母の死でした。
まさか私達3人とも、こんなに早く母が逝くなんて思ってなかったから、「何もしてあげられなかったね」と、兄妹3人で言ってました。
もっと、優しくしてあげればよかったと、本当に後悔しています。
だから、奈南ちゃんには後悔してほしくない。
奈南ちゃんは、お母さんに言いたいことや、聞きたいことがたくさんあるんじゃないの?
でもそれが、怖くて出来ないんじゃないの?
自分が傷付くのが怖いんじゃないの?
お母さんとの関係が、今のままでいいと思ってる?
思ってないよね?
だって、私が知ってる奈南ちゃんは、そんな人じゃないもんね。
奈南ちゃん、親がいつまでも生きてるって思ってたら大間違いだよ?
それは、私達もそう。
いつ誰が死んじゃうなんて、誰にも分からない。
母が死んで、私が1番思ったことは、後悔するような人生は送りたくないって事です。
もしそんな人生を送ったら、死んでも死にきれないと思うから
だから奈南ちゃん。
私は奈南ちゃんに、お母さんとぶつかって欲しい。
もしかしたら、傷付くかもしれない。
辛い事を思い出すかもしれない。
でもそれで、奈南ちゃんが傷付いたとしても、1人じゃないから。
私も慎一郎さんも美智子も居る。
それに何より、相川さんが居るでしょ?
奈南ちゃんを絶対に1人になんかさせないから、それだけは安心してください。
何だか、自分でも何書いてるのかめちゃくちゃなんだけど、私の言いたいこと、何となく伝わったかな?
奈南ちゃん、大好きだよ。
これからも、私の親友でいてね?
最後に1つだけ
お母さんが元気で生きている奈南ちゃんが、とても羨ましいです。
皆川祥子 』
手紙を読み終えた時、私は号泣していた
相川くんが隣に座って、私の頭を撫でているのにも気付かないくらいに
私は携帯を手に取り、祥ちゃんに電話をかけた
「祥ちゃん?」
「あ、奈南ちゃん……」
「馬鹿じゃないの?」
「えぇ?」
「何で、手紙……自分が辛い時に……何やってんの?」
「だって」
祥ちゃんはふふっと笑ってこう言った
「今じゃないと伝わらないかなぁって思ったから」
私は思わず声を上げて笑った
電話の向こうにいる祥ちゃんも笑っている
相川くんは目を丸くしていたけど
「ちゃんと伝わったよ。効果抜群。これで伝わらなかったら、私がどっかおかしいぐらいにね」
「そう?」
「ええ。だって、私の今の顔どうなってると思う?涙でボロボロ、鼻水も垂れてるし、明日になったら目が腫れちゃうんだわ。仕事だって言うのに」
「あら、じゃあ明日は慎一郎さんに頼んで奈南ちゃんの写メを送ってもらおうかな?」
「止めてよ、もう」
ちらっと相川くんを見ると、にっこり笑ってティッシュの箱を私に渡してくれた
「祥ちゃん」
「ん?」
「ありがとう。私、聞いてみるよ、あの人に。何で私を産んだのか。何で私は預けられなきゃいけなかったのか。何で1度も優しくしてもらえなかったのか。私の父親は誰なのか。ちゃんと聞いてみる」
「奈南ちゃん……」
私は小さく笑いながら、相川くんに寄りかかった
「それでもし、私が傷付いても、私は1人じゃないんでしょ?」
相川くんが私をぎゅっと抱き締める
祥ちゃんも、そうだよと言ってくれた
「奈南ちゃんは1人じゃない。奈南ちゃんが嫌がっても、私はずっと奈南ちゃんの親友でいるから、覚悟してね?」
「わぁ私、今すごく熱烈な告白された?」
「そうよ?ありがたいでしょ?」
お互い吹き出して笑う
「祥ちゃん、ありがとう」
「どう致しまして」
「大好きよ」
「奈南ちゃん?」
「お母さんを亡くしたばかりなのに、祥ちゃんの方が辛いはずなのに、ごめんね」
祥ちゃんが言葉を詰まらせた
「奈南ちゃん」
「ん?」
「私……お母さんに何もしてあげられなかった……あんなに苦労して、育ててくれたのに。私、もっと、優しくしてあげればよかったよ……っ」
「祥ちゃん、泣きなよ。思いっきり泣いていいから。お母さんが亡くなったんだよ?泣いていいんだよ?」
私がそう言うと、祥ちゃんは大声をあげて泣き出した
多分、これを慟哭と言うんだろう
しばらくすると、皆川部長が電話口に出た
ただ一言、ありがとうと言って部長は電話を切った
それは今日、部長と仕事をしている時に言われた事
「祥子、泣かないんだ」
「え?」
「涙は流すんだよ。静かにね。でも『大丈夫だよ』って言って、無理して笑うんだ。だからうちの両親も心配して、しばらく実家に居るようにって……思いっきり泣いていいのに……」
よかった
祥ちゃん、思い切り泣けた
私は電話を切ると、抱き締めてくれている相川くんの背中に腕を回した
「祥ちゃん、泣いてた」
「そう。奈南美さんは、大丈夫?」
「うん。でも、しばらくこのままでいて?」
さらにぎゅっと抱き締めてくれた
「相川くん?」
「ん?」
「あの人と話す時、一緒に居てくれる?」
「頼まれなくても、勝手に奈南美さんの隣に居るよ」
当たり前のよう私の隣に居てくれると言ってくれた
幸せだと、この人と離れたくないと、心から思った