可愛げのない彼女と爽やかな彼氏
「まずは南美さんがどんな人か調べたの。そしたらね」

志賀崎さんは何故か相川くんに、いいのかしら?と尋ねた


「俺から言います」
「相川くん?」


相川くんは握っていた私の手をさらに強く握った


「奈南美さん、奈南美さんのお母さんは、捨て子だったんだ」
「えっ?」
「産まれて間もないころに、駅のコインロッカーで発見されたそうだよ」
「そんな、私、そんなこと、聞いてない」


体が震えて止まらなかった
母が捨て子って……そんな……


志賀崎さんもそんな私を見かねてか、私の背中をさすってくれた


「今思えば、尊と南美さんが惹かれあったのは必然だったと思えるの。2人とも、家族の温かさを知らない者同士だったから。2人で温かい家族を作りたかったのかもしれないわね。でも、私はそんな2人のささやかな希望を打ち壊したの」


母の素性を知った志賀崎さんは母を連れ去り、志賀崎家の別荘に監禁したというのだ
父には口が裂けても母の監禁場所は言わなかったそうだ


「そんなことまで」
「ええ、私は南美さんさえいなければと、この人が尊の前から消えてくれれば全てがうまくいくと思ってしまったの。尊にも『あなたは狂っている』と言われたわ」


でも父が母を探し出すのは時間の問題だと思った志賀崎さんは、呪文のように母に繰り返したそうだ


尊と別れなさい
あなたのような人間が志賀崎家に関わるだけでも汚らわしい
今、尊の目の前から消えるのなら悪いようにはしない
だから、消えなさい


たが決して母は首を縦には振らなかった
ただ耐え続けたそうだ
そんな母に志賀崎さんは逆上し母を監禁し続けた
それは1ヶ月も続いたらしい
そして、ついに父が母の居場所を突き止めた


「尊が南美さんを別荘から助け出したと知らせが入った時、私はどこまでも追いかけて捕まえて、そして私の前に連れて来なさいと命じたの。そして……」


志賀崎さんは顔を覆って泣きながら言った


「尊達を追っていた車がスリップして、尊の車に衝突した。南美さんは助かった。でも尊は、即死だった」


しかも助手席の母を庇う為に、ハンドルを切った結果だったそうだ


「私は怒り狂ったわ。まだ傷が癒えていない南美さんに『尊を返して。なぜあなたが死ななかったの。あなたがいなければ尊は死なずに済んだのに』って。南美さんは呆然として何も言わなかった。南美さんも尊が死んだことを受け入れられなかったのね、きっと」


その後志賀崎さんはまた心のバランスを崩し、あまり記憶がはっきりしないという
そして1年たった頃、志賀崎さんに母の現状が知らされた

それは……

母が娘を産み、施設に預け、大学に復学している
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