今日から家族になりまして。
「それは、陽菜ちゃんが俺たちのことをそう思ったことが、悪いことじゃないからだよ。」
「は、どーゆー意味だよ……」
「初めて会う人を、「敵だ」と思ってすべてシャットアウトすることは、俺は悪いことじゃないと思うんだ。
騙されて後悔しても遅かった……なんてことも、ニュースを見ていればよくある話だろ?
陽菜ちゃんは、俺たちを受け入れることなく弾き出そうとした。
それは、自分の身を守るのに大切なことだったりもするんだ。
だから、あの時、陽菜ちゃんが俺たちを受け入れなかったことは、おかしなことじゃない。
むしろ俺たちが、失礼なことをしたくらいだ。
追い出されていても当然だったし、何をされていても当然だった。
だから、陽菜ちゃんの俺たちへの反応は、俺たちが怒れるようなことじゃなかったってこと。
それに全然、怒るような気持ちになんてならないよ。」
空のお父さんは、優しい声で、優しい表情で、キッチンから少し離れた私にそう言った。
「……なによ……怒ればいいでしょ…………。怒ればいいでしょっっ!!言いたいことがあるなら言えばいいのに!そうやって、何も言わないで気持ち抑え込んで、大人の余裕かましてんじゃねーよ!!」
私は、なんでこんなにも心が狭いんだろうか。
どうしてこんなにも、感情を抑えきれないんだろうか。
どうして……私は……いつもこうなんだろう……
「陽菜ちゃんは、心配症なんだねぇ」
「……は?」
にこりと空のお父さんが微笑む。
「陽菜ちゃんは、思ったことを言ってもらわないと、安心できないんだね」
なぜか、私は言葉が出なくなった。
「ちゃんと隠さずに言葉にしてもらわないと、何を考えているかわからなくて不安だもんね。俺は、隠してるつもりはなかったんだけどなぁ。これからは、ちゃんと陽菜ちゃんにも伝わるように頑張るよ」
身体が固まったように動かない。
空のお父さんに言われたことが、私にとって確かにその通りだったからだ。
どうして、私自身にもうまく言い表せないことを、この人は簡単に見つけられたんだろう。
やっぱ、大人だから?
男の人だから?
親だから?
……なんで、私はこんなにも小さな人間なんだろうか。
この人みたく大きな心で、人と接することはできないんだろうか。
いつから私は……こんなにも、自分に素直になれなくなった?
……もし、この人がこんなに大きな心を持てているのが“大人”だからなんだったとしたら、
私も早く、“大人”になりたい。
「…………私みたいな奴、自分の子供にしたいって思うの?やっぱここに来たのは間違いとか、やっぱ嫌だなとか思わないの?」
私は、握りしめた拳を少し震わせる。
「どうして?陽菜ちゃんみたいないい子はそういないよ。陽菜ちゃんは、繊細なだけだ。悪いことを考えるような子じゃない。」
私は、泣きそうになった。
嬉しいような、虚しいような。
よくわからないけど、喉がぎゅうっと締め付けられて、
声を出そうとすれば涙も一緒に出てきそうで
反論もできなかった。
変な人だ。
私を受け入れるなんて。
この人は、私の気持ちがわかっているみたいで
不思議な気持ちになった。
「砂糖は何杯入れる?」
空のお父さんは、私に聞く。
「…………5杯。」
「多くないか?」
声を押し出て答える私に、ははっと笑う空のお父さん。
「ほら、座って」と私を食卓の椅子に促す。
今私が空のお父さんに言った数々の言葉を、まるで気にしていないよう。
むしろそれが、普通の会話だったかのように思わされる。
私が無言で椅子に腰掛けると、紅茶が目の前に置かれた。
ゆっくりと空のお父さんが入れた紅茶を口に運ぶと、ふわっと甘さが口の中に広がった。
……おいしい。
ていうか、絶対これ砂糖5杯入れてない。
でも……ちょうどいい、甘さ。
私は一足先に紅茶を飲み終えたが、お母さんと空がそろう頃には、私が飲むのは2杯目の紅茶だったということを、私と空のお父さんしか知らない。