今日から家族になりまして。



私はゆっくり目線をそらし、また下を向いていく。




……どうすれば、いいんだろう。


もう何も、わかんないや…………




「いいんだ。今はそれで」




突然、そう彼は言った。




「え」




「今は、何も信じなくていい。


そんな簡単に信じられないだろうし


考えれば考えるほどわからなくなるもんだからさ。


でも、きっと、一緒にいる時間が長ければ、


お互いのことをちゃんと知っていけると思うんだ。


だから、今は下を向いていても


俺のことを見なくてもいい。


でも、俺は待つから。


何年、何十年でも、俺は待つよ。


陽菜とちゃんと向き合えるまで、諦めねぇから。」




彼は、慌てなくていいと




焦らなくていいと




そう言ってくれている。




彼は、私とは正反対だ。




前向きで、堂々としていて




私とは違う。




彼の言葉は、私の胸を突き刺してくる。




受け入れないと拒んでも、勝手に私の中に入ってくる。




でも、土足で踏み入ってくるわけではなくて




まだ玄関で立ち止まって、私からドアを開けるのを




待っているような感じ。









私は




立ち止まっていることが、




ずっと良いことだとは思ってはいなかった。




時間ばかりが進んでいって




私の中の時間は止まったまま。




みんなは前に進んでいるのに




私は後ろを向いて立ちすくんだまま。




進むことが怖くて




不安で




ずっとこのままでいた方がいいのだと




言い聞かせていた。







だけど…………












…………いいのだろうか。




少し、進んでみても。




この人に近づきたいと




心を開きたいと




思っていいのだろうか。




まだ出逢って三日しか経っていないのに




私は馬鹿なんだろうか。




それでも私は、なぜかこの人が




悪い人ではないのだと




薄々感じさせられていたのだ。


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