結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
可愛くなったように見えるのはやっぱり気のせいだな、と結論づけて廊下に出た直後のこと。


「あれっ……倉橋さん?」


店内からトイレに向かってやってきたふくよかな体型の男性が、聞き覚えがある声で私の名前を口にした。

目線を上げ、私は驚きで目を見開く。そこにいたのは、もう会うことはないだろうと思っていた人だったから。


「甘利さん!?」

「奇遇ですね、まさかこんなところでまた会えるとは」


お見合いしたときとまったく変わらず、明るい笑顔を見せてくれる甘利さん。まだ一ヵ月も経っていないのに、なんだか懐かしく感じる。

思いもしなかった再会で照れ臭くなりつつ、とりあえず普通に会話をしてみる。


「会社帰りですか?」

「えぇ、今日は上司との付き合いで。倉橋さんは?」

「私もそんなところです」


社長とふたりで食事しに来ているとはなんとなく言えなくてそう返してしまったけれど、あながち間違いではないだろう。

話が途切れると、甘利さんは少し気まずそうな表情に変わって、遠慮がちに言う。


「相談所、退会されたんですね」


あぁ、そういえば、甘利さんの返事を聞く前に退会してしまったんだった。

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