結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
……あれ? ということは、これから甘利さんと結婚を前提にお付き合いしてもいいのでは?

本来そうするつもりだったのだし、万々歳じゃないか。

ふとそんな考えが浮かんだけれど、なにかが心に引っかかってためらってしまう。特に彼に対しての不満もなく、なによりこんな私を受け止めてくれそうだというのに。

どうしてだろう、と悩み始めてしまいそうになるけれど、再び真剣な表情でなにかを言いたそうにしている甘利さんに気づく。

その直後、彼の後ろからやってくる人影が見えてはっとした。


「倉橋さん──」

「おい」


甘利さんが口を開いたと同時に低い声を被せたのは、彼の背後に立つ長身の男性、泉堂社長だ。

彼が来たことに、甘利さんとともに驚いていると、普段は絶対に聞かない不機嫌さが混ざったような声が放たれる。


「遅いぞ、綺代」


一瞬、空耳かと疑った。

だって、今、“綺代”って言ったよね? なにゆえに!?

意味がわからず困惑していると、甘利さんの横をすり抜けてこちらに来た彼は、私の肩に手を回してきた。

さらに謎な行動で、内心あたふたしてしまう。社長に呼び捨てにされただけで、なぜか鼓動が速まっているというのに!

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