結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
彼はすぐにトイレに入っていき、社長は私の肩を抱いたまま店のエントランスホールへと歩き出す。どうやら、私がトイレに行っている間に会計は済まされていたらしい。

大将の気持ちの良い挨拶で夜空の下に送り出された瞬間、無愛想な声が降ってくる。


「なんだ、あの優男は」

「あの人は類い稀ないい人なんです。っていうか、こっちが説明してもらいたいんですが!」


強めな口調で言い放つと、足を止めた社長が私を見下ろす。思いのほか顔が近くてドキリとする。


「呼んだらダメか? 綺代、って」


糖分が増したセクシーな声で再び名前を紡がれ、胸が締めつけられるような感覚を覚えた。

呼び捨てされること自体は嫌じゃなく、むしろ嬉しいくらいだ。彼に呼ばれると、この昭和じみた名前も特別で素敵なものになったように感じるから。


「ダメ、じゃないです、けど……や、そうじゃなくって!」


一瞬ほだされそうになり、慌てて論点を戻す。私が聞きたいのは、なぜ恋人みたいに振る舞ったのかということだ。

いまだに肩を抱いている手をツンツンと指差す私を見て、彼は私の言いたいことをすべて理解したらしく、やっと手を離した。

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