結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
打って変わって厳しいひとことが放たれ、私はピシッと凍りついた。

く……くだらない~~!?

拝みたくなっていた心境が、反撃モードに一転。窓枠に頬杖をつき、悔しいほど絵になる姿で工場を眺める彼に食ってかかる。


「くだらないとはなんですか! チョコレート自体に媚薬効果があるって、ちゃんとした実験結果が出てますし、理論上は可能です」

「それがくだらないんだって。要は、相手の心を科学で動かそうとしてるってことだろ。恋愛ってのはそういうモンじゃないんだよ」


冷ややかな表情を見せる彼は、冷静に私を説き伏せる。


「人の心は計算できない。恋愛は特に、必ず理性とは真逆の感情がついてくる。それをなんて呼ぶかわかるか?」


こちらを一瞥して問いかけられ、物申したい気持ちをぐっと堪えてとりあえず回答を探した。理性の逆といえば、これしかない。


「……本能」


ムスッとしながら答えると、社長の唇がゆるりと弧を描き、「正解」と言った。


「媚薬なんて必要ないんだよ。本当に好きになる女なら、男は最初から感じる。“こいつを抱きたい”って」


向けられる流し目と、セクシーな声。

「少なくとも、俺はね」とつけ足して、浮かべる妖艶な笑み。

そのすべてが情欲的で、なんだかよくわからないざわめきが心臓を襲った。

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