結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
でも、不快ではなかった。むしろ……。

考察を始める私に、体勢を元に戻した社長が、なにもなかったかのような余裕の表情で言う。


「今、なにかしら感じたものがあるだろ。それが本能だ。大事だからよーく覚えとけ」


彼のキスで私が感じたものは、少しの恐怖と、もうひとつ──快楽だ。

身体が溶けるような、“気持ちいい”という感覚は初めて覚えた。

『もうやめてください』と言ったのは口先だけではないけれど、やめてほしくないという矛盾した思いが奥底にあることも事実。

その、心から湧き上がってくるものが本能なのだ。それを無視してはいけないのだろう。

恋愛に必要なのは、理性だけじゃない。社長の教えが今度はすんなりと入ってくるような気がして、私は「はい」と素直に頷いた。


帰りの車内、なんだか夢を見ているような気分で、ぼんやりと窓の向こうに流れていく夜の街並みを眺めていた。

社長にキスをされただなんて、いまだに信じられない。しかも、あんなに濃厚な大人のキスを。

あの流れでシートを倒されて、服を乱されていったら、例のAVのシーンに行き着くのか。なるほどね……って、なに納得してるんだ私は。

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