結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
でも、そんなわがままを口にできるはずもないので、「じゃあ、また会社で」と当たり障りのないことを言い、車を降りようとした。


「待て、忘れ物」

「えっ?」


呼び止められ、再び運転席のほうを向く。なにを忘れたのか、思い当らないもののキョロキョロと探していた、そのとき。

左耳にかかる髪に手を差し込まれ、顔を社長のほうへと向けられる。

次の瞬間──柔らかな唇が私のそれに押し当てられ、ちゅっ、とリップ音を立てて離れていった。


……ん!? また、キスされた!?

一瞬の出来事に呆気に取られ、パチパチとまばたきして固まる私を見つめる社長は、ふっといたずらっぽい笑みをこぼす。


「その驚いた顔、可愛いから最後にもう一回見たくて」


ぼっ、と火がついたように顔が熱くなった。

こ、この社長様は……本能なんだかからかっているんだかわからないけど、平然とそういう言動をしないでくださいよ!


「な、な、なにしてるんですか、もうっ!」


怒ったように吐き捨て、今度こそ車を下りると、少々乱暴にドアを閉めてしまった。

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