結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
「面白そうなので僕も手伝います。上手くいけば、倉橋さんが学会で論文発表してイケメン学者の目に留まるかもしれませんし」

「それ媚薬関係ないね」


私のツッコミにクスッと笑った彼は、ちらりと腕時計に目線を落として、私の向かい側にある自分のデスクへと戻っていく。

もう始業時間の九時だ。仕事脳に切り替えないと。今日はいくつか試作品を作らなければいけないんだから。

長くなった前髪を耳にかけ、気合を入れて分析データを確認し始めようとしたとき、咲子ちゃんがこんな声をかけてくれる。


「綺代さんの恋愛、応援してますから。頑張りましょうね」


両手で丸い拳を作り、丸みを帯びた顔でにっこり笑う咲子ちゃんは、とても愛らしくて癒される。

昨日の失敗で落ち込んでいた気分がだいぶ浮上してきて、私も笑顔で「ありがと」と返した。



今日は午前中に一回試作品を作り、研究室の皆で試食することになっている。

壁に面して業務用の冷蔵庫が設置され、試作に必要不可欠な小型の機械や分析機器、様々な薬品がずらりと並んだ研究室は、一見食品を作る場所のようには見えない。

しかし、ここでサンセリールの商品が日々生み出されているのだ。そして、私が落ち着ける場所のひとつでもある。

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