結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
「さすがだな。じゃあ早く終わらせて、一緒に帰ろう」


隣の咲子ちゃんのデスクに腰を下ろしながら口にされたひとことに、キュンとしてしまった。

待っていてくれるのも、『一緒に帰ろう』というセリフも、まるで恋人同士みたいじゃない。

キスまでしておいて、こんなことにときめいているのはおかしい気がするけれど、私は素直に「はい」と答え、緩む口元を結んだ。

雷に怯えていた先ほどとは打って変わってサクサク進めていると、ふいにこんな問いかけが投げられる。


「そういえば、この間葛城さんが来たとき、俺がいない間なにもなかったか?」


ギクリとして、調子良くキーボードを打っていた手を一時停止してしまった。

そうだ、あれ以来社長と会うときがなかったから、確認されていなかったのよね。やばいやばい、普通にしていなきゃ。普通に……。

私はくるりと隣を向き、明るく笑ってみせる。


「あるわけないじゃないですか」

「……ふーん」


気のない返事をする社長は、なんとなく訝しげに見える視線をこちらに向け、足を組んだ。

決まりが悪くなってパソコンに目を戻すと、彼はあえて私に聞かせるようにひとりごちる。


「もしも、万が一今のが嘘だったとしたら、キス百回じゃ済まないな」

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