結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。

恋愛の方程式ほど難関なものはない


泉堂社長のことが、好き。

その気持ちを自覚してから、初めて気づいたことがある。私は、彼氏がいないという以前に、誰かを本気で好きになったことがなかったのだ。

だって、気品ある立ち居振る舞いをする彼の姿を社内で見かけたり、偶然すれ違うときに含みのある笑みを向けられたりするだけで、心拍数が上がって顔が熱くなるなんてこと、これまでになかったから。

それと、彼が大切な人のことを想って見せた切なげな表情を思い出して、胸が苦しくなることも。

私はその人に似ているという。もしかしたら、社長は別れた彼女を私に重ね合わせているのかも……。

そんなふうに推測すると、シクシクと胸が痛む。これが恋の病というものだということも、初めて知った。


二十七歳にして初恋か……深く考えるとなんだか寒気がしてくるからやめよう。

それより私がするべきことは、葛城さんにちゃんと返事をすることだ。

他に好きな人がいるという明確な理由ができたのだから、申し訳ないけれどお断りしなければいけない。

しかし、連絡先がわからないため、私がとれる手段はパティスリー・カツラギに直接行くしかない。

雷雨の残業から三日後の今日は金曜日。

心の準備もできたことだし、仕事が終わってから行ってみよう。話す時間はなくても、改めて会う約束を取りつけられればいい。

< 179 / 276 >

この作品をシェア

pagetop