結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
商品化するチョコレートは、当然私たち研究課だけでなく、開発課や営業課など、サンセリールの社員が一丸となって作り上げるもの。

でも、もしそれが受賞したら、自分たちで発見し、追究した製法を認められたとも言えるのだ。研究者冥利に尽きること、この上ない。

と、真面目に考えていたものの、咲子ちゃんは呑気に冗談をかましてくる。


「媚薬チョコ、開発できたら出品してみますか」

「“それは危険で賞”なら受賞間違いない」


ケラケラと笑う咲子ちゃんの隣で、来月の会議のことを忘れないようメモしておこうと、白衣のポケットからペンとメモ帳を取り出そうとしたものの……。


「あれ? メモ帳どうしたっけ」


いつもすぐに書けるようにメモ帳を忍ばせておくのに、ポケットに入っていないことに気づいた。

バッグに入れたままだったかな? 朝ぼーっとしてたし。

あらゆるポケットに手を当てて首をひねっていると、研究室の入り口付近で仲間が騒ぐ声が聞こえてくる。


「うわ、油こぼれた!」

「皆ここ気をつけてー」


どうやら研究に使う油を床にこぼしてしまったらしく、後輩の男子が慌ててペーパーを取りに行っている。

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