結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。

幸せな擬似体験の終末理論


休み明けの月曜日、私はマスクで顔半分を覆って出社した。

土曜日から少し喉に違和感を覚え、徐々に悪化して鼻水も出るようになってしまったのだ。軽い風邪だから仕事に支障はないけれど。

鼻をぐすぐすと鳴らしてデスクに座る私を、すでにメールのチェックを始めている咲子ちゃんが心配してくれる。


「綺代さん、風邪? 大丈夫ですか?」

「ん。ちょっと鼻水が出るのと喉がおかしいだけで、たいしたことないよ」

「P対NP問題のせいですか」


明るく答えたあと、白衣を羽織りながら私たちの向かいのデスクにやってきた氷室くんが、さりげなく自然に混ざってきた。

確かに、ただ雨に濡れたせいだけじゃなく、例の問題で気力を使ってしまったせいでもあるかも。

直接的に言わない氷室くんがなんだかおかしくて、私は軽く笑って「それもある」と答えた。

そんな私たちを、咲子ちゃんは意味がわからないといった様子で、キョトンとして交互に見ている。

お昼休みにでもふたりに相談しようと決め、私はとりあえずティッシュで鼻をかんだ。


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