結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
空耳だと決め込んで、機械の中で波打つチョコレートから目を離さずにいると、咲子ちゃんが慌てて私の腕をつつく。


「綺代さん、なんか呼ばれてますよ、社長に!」

「……えっ!?」


マジだったの!?と、数秒の間を置いてすっとんきょうな声を出し、バッと勢い良く振り返る。目が合った社長は、私を見てふわりと微笑んだ。

な、なぜ? 社長直々に呼び出されることなんて、過去に一度もないのに!

唖然とする私にさりげなく近づいてきた氷室くんが、ボソッと呟く。


「なにやらかしたんですか」

「なんで問題起こしたことになってんの! 私はなにも……」


そこまで言って、はっとした。

なにもなくないってば。昨日、粗相してしまったじゃない! ぶつかったことがきっかけで、なにか大変な事態に発展してしまったとか?


「心当たりがありそうですね」

「……ひとつだけ」


無表情で言う氷室くんに、私はサーッと血の気が引くのを感じながら答えた。

悪い予感しかしないけれど、とにかく行くしかない。社長は忙しいのだから、ぐずぐずしている場合ではない。

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