結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
ゆっくり動くカプセルの中にふたりで乗り込み、徐々に遠くなっていく明るい光の街を見下ろして、私は小さくため息をつく。


「綺麗……」


まるで別世界だ。この夢の世界で使える魔法があるなら、このまま時間を止めてしまうのに。

非科学的で、乙女チックなことをぼんやり思っていると、「綺代」と呼ばれて振り向いた。向かい側に座る達樹さんは、なにやら真剣な表情をしている。


「今から大事な話をさせてくれ」


──ドクン、と心臓が鈍い音を立てた。

彼が話そうとしているのは、今日ここに来た理由か、彼が胸に秘めている女性の話か。はたまた両方かもしれない。

どれにせよ、タイムリミットだ。彼の本当の想いを聞いたら、私の恋も終わる。


「実は……」

「あの!」


切り出そうとした彼を、思わず遮ってしまった。できることなら、夢の時間をもう少し引き延ばしたくて。

目を丸くする達樹さんに、私はへらっと笑って雑学を披露する。


「観覧車って、だいたい秒速25センチメートルくらいのスピードで回転するんですって! これは亀が走る速度の約二倍で──」

「その話、今しないとダメか?」


今度は、口の端を引きつらせて軽くイラッとしつつ笑う彼に遮られた。

< 211 / 276 >

この作品をシェア

pagetop