結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
「あ、お、おは、おはようございます」


必死に平静な顔を取り繕っているようだが、明らかに動揺している。

辺りに人がいなくなった隙に、俺は少し屈んで固まっている綺代に顔を近づけて囁く。


「……金曜日のこと、忘れたとは言わせませんよ?」


口元にだけ笑みを浮かべ、鋭い眼差しを向ければ、彼女はゆっくりと目を逸らした。そして口の端を引きつらせつつ、あろうことかしらばっくれる。


「そ、それ私ではないですよ。あっ、社長、ドッペルゲンガーでも見たんじゃないですか!? 不思議ですねぇ~……失礼します!」

「おい」


俺の制止も聞かず、適当すぎる言い訳をまくし立てた彼女は、またしても逃げるように素早く事務所に入っていってしまった。

お前、ドッペルゲンガーなんて非科学的なもの信じてないだろうが……。

脱力しながらため息を吐きだし、仕方なくその場をあとにした。この様子だと、どんなに話し合いに持ち込もうとしてもはぐらかされるかもしれない。


それからも何度か綺代の姿を見かけたときに話しかけようとしたものの、懸念していた通り逃げられまくっている。あいつは魚かなにかか。

気がつけばもう週末を迎えようとしていて、俺の苛立ちもピークに達していた。

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