結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。

綺代のことは、入社試験で名前を見て気づいてから、“倉橋さんの娘”だと認識していただけだった。

仕事中は白衣に眼鏡の、ザ・理系という感じのスタイルと、あまり笑うところを見たことがなかったせいか、お堅い印象も持っていたが。

それが少し意識するようになった最初のきっかけは、おそらくあのとき──彼女が落としたメモ帳を拾ったときだろう。


プライベートの綺代はイメージが違い、率直に綺麗な子だなと思った。一瞬、目が離せなくなるほどに。

それに、この子は研究課の倉橋だよな?と気づいたものの確信できなかったため、どこかに名前が書かれていないか探してみようと、悪いとは思いつつもページをめくらせてもらったのだ。

そして目を見張った。そこには、研究についてのことやマニアックな単語だけでなく、“お客様の幸せと笑顔を作るお手伝いをします”という企業理念が、丁寧な字で書かれていたから。

新入社員かよ、とあまりの真面目さに思わず笑ってしまったが、胸が温かくなったことを覚えている。

メモをとるのは、だいたい忘れたくないことや大事なことだろう。俺が掲げる目標を彼女も大切に思ってくれているようで、ただそれだけでとても嬉しかった。

あの理念には、俺がこの仕事をするきっかけになった、あるときの思いが込められているから。

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