結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
ダークホースのように存在が急浮上してきた氷室に、むくむくとライバル心が湧き上がる。綺代の周りにある余計な芽は、摘み取ってしまいたい。

そのギスギスした気持ちをなるべく表面に出さないよう努め、平静を装って綾瀬に告げる。


「終業時間を迎えたらここに来るように、氷室くんに伝えてもらえますか」

「承知しました」


綺麗な一礼をしてようやく俺のそばを離れていく彼女を、「綾瀬さん」と呼び止めた。

振り返る彼女に、優しい笑みを向ける。


「ありがとう」


自分がした行為や氷室の件を正直に教えてくれたことと、俺に好意を寄せてくれたことに対して、感謝を述べた。

目を見開いた綾瀬は、その意味を察知したのだろう。一瞬泣きそうな顔を見せたものの、すぐに口角を上げてもう一度深く頭を下げた。



就業時間後、伝言通り社長室にやってきた氷室を、部屋の中央にある応接用のソファに座るよう促した。

テーブルを挟んで彼の向かいに俺も腰を下ろし、余裕を絶やさないよう意識しながら話し出す。


「突然呼び出して申し訳ない。用件は、仕事のことではありません」


こうやって一対一で面と向かって話すのは初めてに近いというのに、氷室はまったく動じていない。

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