結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
この男はいつも無表情でなかなか本心を読み取りづらいが、おそらく俺がなにを言おうとしているかわかっているのだろう。

ならば、ここはストレートに聞くことにする。


「単刀直入に聞きます。君は、倉橋さんのことをどう思っていますか?」


まっすぐ彼を見据えると、眼鏡の奥の瞳も揺らぐことなく、すぐに口が開かれた。


「好きです。ひとりの女性として」


迷いなく返ってきた答えは予想していたものだったが、やはり少なからず焦燥を掻き立てられる。


「……ですが、とっくにフラれています。彼女には、他に好きな人がいるので」


伏し目がちに続けられた言葉で、焦りは一瞬治まった。そして、好きな人がいるという事実にドキリとする。

あいつ、恋心を自覚していたのか。その相手は当然俺であってほしいが、真実はどうなのだろう。

そう考えていたとき、氷室の口から思わぬひとことが飛び出す。


「今日、葛城という人と会う約束をしていると聞きました」

「え……?」


葛城と? なぜ会う必要がある? というか、いつの間にふたりは連絡を取り合っていたのか。

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