結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
きっと、昨日ぶつかってバッグを落としたときにメモ帳も落としてしまい、社長が拾ってくれたものの、私は受け取らずに帰ってしまったのだろう。

そして彼は、リケジョ姿ではない私のことも見抜き、所属も名前も知っていた。なんとアメイジングな!


「あの、ど、どうして私だってわかったんですか!?」

「社員の顔くらい覚えてますよ」


当然だというように軽く笑う社長だけど、この本社にだって二百人以上の社員がいるのに、その中の研究員の顔と名前を覚えているって相当すごいことですよ……。

メモ帳を受け取った格好のまま唖然としていると、彼はこんなふうに続ける。


「それで、倉橋さんに折り入って頼みたいことがあるんですが」


どうやら用件はメモ帳を届けることだけではなかったらしい。そんなに改まって言われると構えてしまうけれど、きっと研究のことについてだろう。

仕事脳に切り替えた私は、眼鏡を丁番の辺りで押し上げ、「なんでしょうか?」と尋ねる。

すると、社長はまっすぐ私を見つめ、真剣な声でこう告げた。


「付き合ってくれませんか」

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