結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
挑戦的な彼は、初対面のときを彷彿とさせる。さすがは天才パティシエ、自分の価値をちゃんとわかっているらしい。

私のことを“報酬”としているあたり、やっぱり愛情に欠けているような気がするけれど。

社長は一度目を伏せてゆっくり頷いたあと、再び葛城さんを見据えてすっと息を吸い込む。


「ならば、こちらからお断りさせていただきます」


毅然と放たれたひとことに、意表を突かれた私も葛城さんも目を見開いた。

嘘、断るって……せっかくのチャンスを潰してしまうの!?


「社長──!」

「そんな汚い手を使うような方と、クリーンな仕事をできるとは思えませんので」


私に構わずはっきりと物申す彼の、きりりとした表情からは、揺るぎない決意が窺える。誰がなんと言おうと止めることはできなさそうだ。

社長は腕を組み、厳しい口調で話を続ける。


「当然、事業計画は水の泡になりますし、見込んでいた大きな利益も得られなくなる。
ですが、あなたに頼らないからといって、サンセリールが地に落ちるわけではありません。また新しい方法を模索すればいいだけのことです」

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