結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
「社長、です……」


喉の奥から震える声がこぼれると、張り詰めていた彼の表情がふっと緩んだ。そして、私の前に手の平が差し出される。


「なら、なにも悩む必要はない。安心して俺のところに来い」


その瞬間に、堰き止めていた想いが決壊する。込み上げた涙が溢れ、彼の姿がぐにゃりと歪んだ。

もう理性はまともに働かない。仕事のことも、元カノのことも、今はどうでもよくなってしまう。

私の心が望むのは、差し伸べられたこの手を取ること。それだけだ。


「……ごめんなさい、葛城さん」


上ずった声で呟き、私は愛しい大きな手に自分のそれを重ねた。

優しく引かれて私が腰を上げると、社長は「失礼いたします」と葛城さんに一礼し、手を繋いだまま個室を出ようとする。

そのとき、「倉橋さん」と呼ぶ声に引き留められ、私は頬を濡らしたまま振り返った。

葛城さんは椅子に背中をもたれ、ため息とともに嘲笑を漏らす。


「わかってたよ、君の好きな人はきっと泉堂さんだろうって。だから卑怯な条件を出した。……でも結果は惨敗だね。認めたくないけど」

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