結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。

手を引かれて店を出ると、外は薄暗くなっていて、生温かい空気が纏わりつく。まだまだ心臓は激しく動いていて、雲の上を歩くみたいに足元がふわふわしている。

現実味が湧かないのだ。この手には、もう二度と触れることなどないと思っていたのだから。

なにからどう話せばいいのかわからないけれど、とりあえず足を止めてほしくて「社長!」と呼びかける。

しかし、彼はなにも言わずにどんどん先を進む。「達樹さん!?」と呼び方を変えてみても、効果はナシ。

どこまで行くのかと困惑していたとき、人気がない裏路地に差しかかったところで、ようやく立ち止まってくれた。

これで話ができると思ったのもつかの間、今度は別の理由で不可能になってしまう。


「ぅ、んん……っ!」


私の唇は、彼に食されてしまったから。

頭を押さえられてお見舞いされる噛みつくようなキスは、荒々しく濃厚で、私のすべてが彼のものにされるみたいで。幸福な苦しさで窒息しそうになった。

……というか、本当に苦しい!

ドキドキしているうえに、息つく間もなく唇を塞がれるものだから、頭の中が白くなってくる。トントンと胸を叩き、三途の川を渡る前になんとか解放してもらった。

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