結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
「あの、どうかお手柔らかに……」

「さぁどうするかな。縛るか」

「しばっ……!?」


楽しそうに、かつとっても悪そうなお顔で口角を上げる彼の、とんでもないひとことにギョッとする。

縛るだなんて、それはまさか、SMという名のプレイ? 初心者にそれってかなり酷じゃないですか!? 紫乃お姉様ー!

彼女に頼めば動画で予習させてもらえるかも、なんてアホなことを考えてひとりあたふたしていると、隣から小さく笑う声が聞こえた。

そして、彼の口調は真剣なものに変わる。


「俺は本気だ。お前がどこにも行かないように、縛って繋いでおく。これを、左の薬指につける鎖にして」

「……え?」


なにかが差し出されて振り向き、私は息を呑んだ。

達樹さんの手に持たれたものは、小さな黒い箱に納まる真っ赤な美しい薔薇。その真ん中に、ひと粒の宝石が眩いばかりにきらめいている。

実際に見たことはほとんどないのにわかる。高貴な輝きを放つそれは、ダイヤモンドだと。


「っ、これ──!?」


衝撃で、それ以上の言葉が出なかった。

“左の薬指”から連想するものはひとつしかない。この人は、私を繋ぎとめておく究極の手段があると気づいたんだ。

結婚こそ、最上級の過保護だと──。

< 245 / 276 >

この作品をシェア

pagetop