結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。

いつも通りに出社した私は、時間を見計らって六階の大会議室に向かった。入社式を終えたあと、研究課に配属された社員を事務所まで案内するためだ。

ついでに、社長である達樹さんの話を聞こうと思い、そっと会場の隅に紛れ込んでいる。

ずらりと並べられた椅子に、真新しいスーツに身を包んだ五十名ほどの新入社員が、緊張した面持ちで座っている。

私もこんなときがあったんだな、と懐かしく思いながら眺めていると、壇上に達樹さんが颯爽と現れ、挨拶を始めた。

すっかり見慣れているのに、気品溢れる堂々としたその姿は、いつでも私の胸をときめかせ、さらにシャキッとさせてくれる。


背筋を伸ばす新入社員たちとともに、彼の落ち着く低音の声で、堅苦しくなく語られる話に耳を傾ける。

その中で、先日発売された葛城さんとのコラボ商品がすでに大きな話題を呼んでおり、生産が追いつかなくなるほどだという話も出された。

いろいろあったものの、今では葛城さんとすっかりいい関係を築けているのだ。

まぁ、葛城さんがあっけらかんと失礼なことを言って、達樹さんをご乱心させるのは相変わらずなのだけど。

これまでのことを思い返しながら聞いていると、そろそろ終盤という辺りで経営理念についての話に突入した。

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