結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
「理念のひとつに、“皆様の笑顔を作るお手伝いをします”というものがありますが、実はこれは、私がこの仕事を目指すきっかけとなった、ある出来事から生まれた言葉なんです」


それは私も初めて耳にする事実で、さらにしっかりと意識を集中させる。

次いで彼の口から出たのは、予想外の発言。


「私が高校生の頃、とても悲しい事情があって泣いていた女の子に、チョコレートをあげたことがありました」


……え? 嘘、それって……!

私は驚きで目を見開いた。だって、今彼が話したのは、私がサンセリールに入社するきっかけとなった出来事と同じだから。

まさか、達樹さんも覚えていたの? 私たちが一番最初に顔を合わせたときのことを……。


「私の父はかなりの甘党で。特にわが社のチョコレートが好みだったので、現会長の叔父からもらってよく持ち歩いていました。それを思い出した私は、これで女の子を慰めてあげられるかもしれないと考えて、父からチョコをもらったんです」


そう話す彼は、どこか懐かしそうな目をしている。私も、深い悲しみに襲われた約十年前のあの日に、記憶を遡らせる。

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