結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
空……ということは、やっぱりお父さんはもうあの世にいるのね。

死後の世界もだいぶ非科学的だけど、父はそこにいると思っておけば心が安らぐため、天国の存在はあえて否定しない。

そんなことを考えていたとき、つい先ほど自分の身に起こったことを思い出してギクリとした。

そうだ、私は研究室で転んで、頭を打ったんだ。ま、まさか……。


「お父さんがいるってことは、私ももう、死んで……?」


血の気が引くのを感じながら、無意識に両手で口元を覆う。

ここは本当に天国で、私は死んじゃったの? 油で足を滑らせて?

生涯独身で、“死の商人”と呼ばれた化学者、アルフレッド・ノーベルに負けずとも劣らない悲しい最期……!

絶望感でいっぱいになっている私の耳に、はっはっはと軽く笑う声が響いてくる。


「なに言ってんだ。まだこっちに来てもらっちゃ困るよ」


どうやら私をあの世へ連れてきたわけではないらしい父は、ベッドに腰かけ、穏やかな声で言い聞かせるようにこう紡ぐ。


「これからきっと、綺代のことをずっと守ってくれる人が現れる。その人とヨボヨボになるくらい年を取って、もうやり残すことはないって思えるくらいになったら、こっちに来い」

< 27 / 276 >

この作品をシェア

pagetop