結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
「退院したらここに連絡をください」


手渡されたものを見て、心臓が揺れ動く。

これは、もしかしなくても、泉堂社長のプライベートな携帯番号……!

こんな貴重なもの、受け取ってしまっていいの!? というか、これを渡してくれているのは眼鏡を弁償するためよね? 私の遠慮は無視ですか!


「あの、でもっ」

「これは、社長命令」


じっとしていられなくて、思わず起き上がりそうになりつつ遠慮しようとするも、ビシッと押し切られてしまった。

社長命令というものほど、有無を言えなくさせられるものはない。社長って、案外強引だ。


「……はい」


おとなしく従うことにすると、彼は満足げな表情を見せて腰を上げる。ついに夢のひとときが終わってしまうらしい。


「じゃあ、そろそろ行きますね」

「はい。本当にありがとうございました」


少しの名残惜しさを感じつつお礼を言う私に、社長は小さく首を振った。

そして、桃色のカーテンに手を伸ばしたもののぴたりと止まり、なにかを思い出したようにこちらを振り向く。


「今日は大切な話をしようと思っていたんですが、君が本調子になってからにします。お大事に」

< 35 / 276 >

この作品をシェア

pagetop