結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
お父さんが事故に遭ったときのこともあるし、きっと私が病院に運ばれたなんて話を聞いたら、さぞかし心配したことだろう。

「よかったわ、たいしたことなさそうで」と胸を撫で下ろすお母さんに、ちょっぴり罪悪感を抱きつつ笑みを返した。

ベッドを起こして座り、持ってきてくれたお見舞いのプリンを受け取っていると、紫乃ねえが私の足もとのほうに腰かける。

二歳上の彼女は、ゆるふわのパーマがかかったボブの髪を揉み込むようにくしゃっと弄りながら、感心したように言う。


「あんたんとこってすごいね。わざわざ社長が連絡寄越してくれるなんて」

「あぁ、たぶん転んだときに一緒にいたからだと思うけど、でも本当にいい人だよ。さっきまでここにいてくれてたし」


社長が座っていた簡易椅子をちらりと見やると、なんだか胸がざわめきだし、それを抑えるように無意識に唇を結んでいた。

すると、にやけたお姉さまの顔が、どアップで視界に入り込んできてギョッとする。


「へぇ~。なんかちょっと乙女な顔になってない?」


乙女な顔? それがもし少女漫画のような“恋をしている可愛らしい表情”ということなら、ただの気のせいだと言いたい。

確かにドキドキはしたけれど、恋に落ちたというわけではないのだから。

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