結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
「なってないよ」

「へぇ~」


普通に否定したものの、紫乃ねえはまったく意に介していないようにニヤニヤしている。

冷ややかな目線を返すと、体勢を元に戻した彼女は意気揚々と話し始める。


「でもサンセリールの若社長って独身なんでしょ? 綺代みたいな一研究員がお近づきになれることなんて滅多にないんだから、このチャンスをモノにしない手はないわよ。昨日のお見合いもいまいちだったみたいだし」


チャンスうんぬんは置いておくとして、痛いところを突かれて黙り込んでいると、私の着替えを収納スペースにしまったお母さんが、椅子に腰かけながら言う。


「あら、いまいちだったの? 甘栗さんだっけ」

「それ絶対わざと間違えたよね?」


すかさず確認すると、お母さんはいたずらっ子のようにケラケラと笑っている。

この母はかなりの天然なのだ。もしかしたら本当に甘栗さんだと思っているのかも、と一瞬引いたけれど、どうやらただボケていただけらしくホッとした。

そういえば、お母さんにはまだ結果を話していないんだった。夜、スナックで働いている彼女は、私たちが仕事に行くときはまだ寝ているから。

私のお見合いの行方を生暖かく見守っているふたりに、昨日のことを思い出しながら率直な感想をこぼす。

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