結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
結局、社長から折り返しの電話はかかってこなかった。
もしかしたら……と思って寝るまでそわそわしていたけれど、彼はとても忙しいだろうし、そもそも私が退院したことだけ知ることができればいいのかもしれない。
浮ついたことばかり考えていないで、ちゃんと仕事しなければ。
通勤電車の中で気持ちを切り替え、薄いカーディガンにスキニーパンツといういつものカジュアルなスタイルで、本社までの道を歩く。
眼鏡は昔使っていたものをとりあえずかけている。少し度が弱いものの、日常生活にそれほど支障はない。
エントランスに着いたところで、「綺代さーん!」という声が聞こえて後ろを振り向いた。
女の子らしいフェミニンな服装の咲子ちゃんが、手を振りながら豊満な胸を揺らして小走りでやってくる。
彼女は入院中、『氷室くんとお見舞いに行きます』と言ってくれたのだけれど、すぐに退院するからいいよ、と断っていた。
心優しい後輩は、今日も朗らかな笑顔で私を癒してくれる。
「おはようございます! 具合は大丈夫ですか?」
「全然平気。ごめんね、仕事に穴開けちゃって」
「大丈夫ですよ。試作は氷室くんが手伝ってくれたし、評価も上々でした」