結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
かくりと頭を垂れる私に顔を近づけた咲子ちゃんは、こそこそっとシャレにならないことを口にする。


「研究室が男ばっかりでよかったですね。女性社員がいっぱいいたら、今頃綺代さんまた病院送りになっちゃってたかも」

「末恐ろしいこと笑顔で言わないで」


軽く笑う彼女に、微妙な顔をする私。

社長は女性社員の憧れの的だけれど、さすがに嫉妬で刺されたりするだなんてことはないだろう。でも、女性の敵は多くなるかもしれない。

咲子ちゃんの言う通り、研究課には私たち以外に女性はふたりしかおらず、既婚者だし社長のファンでもないから、面倒ないざこざが起こらなさそうでよかった。

そんなことを話しながら二階の廊下を歩いていくと、研究課の皆や、通り過ぎていく社員たちが一様に頭を下げていく様子に気づく。

その光景を見て、目を疑った。


「あれっ、噂をすれば社長じゃないですか!?」


驚きの声を控えめに上げる咲子ちゃんのおかげで、さらに心臓の動きが活発になる。

研究課の事務所の前で資料をめくりながら立っているのは、今日も凛としたスーツ姿が素敵な泉堂社長だ。

どうして社長が朝からここに!?

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