結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
これでもかというほど目を見開いて驚愕する私に、彼はクスッと笑いをこぼして言う。


「満足させてあげますから、ご心配なく」


どこか含みのある微笑みや発言には、なんだかフェロモンたっぷりで。この化学物質をチョコレートに混ぜたら簡単に媚薬ができるんじゃないか、ってくらいドキドキさせる力がある。

言葉を失くして呆然としていると、彼は私に半歩近づき、耳元に顔を寄せてくる。


「……このことは、内密に」


吐息混じりに囁かれ、背筋がゾクゾクして、私はただこくりと頷くだけで精一杯だった。

満足げに口角を上げた社長は、前屈みになっていた体勢を元に戻す。

「眼鏡もそのときに買いましょう。また連絡します」と告げ、エレベーターのほうに向かって足を踏み出し、私の横を通り過ぎていく。

すらりとした後ろ姿を見送ると、一気に力が抜けてフラフラと壁に寄りかかった。今、息してなかったかも。


「これは……現実?」


社長から秘密のお誘いを受けただなんて、とても信じがたい。この間言っていた“大切な話”というのは、このお誘いのことだったのだろうか。

どうして? なんで私!?

花が咲く頭の中には、蝶々の代わりにハテナマークが飛び交っていて、処理できないほど大騒ぎだった。



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