結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
「無事退院してよかったね、って」

「それだけじゃないですよね?」

「まぁ、うん……とりあえず今はまだ内緒」

「えー」


不満げに頬を膨らませる咲子ちゃんを宥めていると、お品書きを眺める氷室くんが無表情のまま口を開く。


「内緒の話をするくらいの仲になった、ということは事実ですね。おめでとうございます」

「まったく感情こもってないけど」


棒読みの彼に、そう言わずにはいられなかった。というか、まず“おめでとう”はなにか違う。

あれをデートのお誘いだと安易に受け取ってしまうのはいかがなものか。少女漫画のような展開に憧れてはいても、実際に起こることなどほとんどないと、ちゃんとわかっているのだから。

しかし、日替わりランチを頼んだあと、目を輝かせる咲子ちゃんの興奮気味な声で、また気分は浮ついてしまう。


「でも、本当にすごいことですよ。高嶺の花の社長が、忙しい中綺代さんだけに会いに来たんですから!」


そう言われると、話の内容うんぬんより、会いに来てくれたということだけで奇跡のような気がしてくる。

意味もなくおしぼりを弄っていると、氷室くんが唐突に社長について語り始める。

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