結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
「僕、活字はあまり得意ではないんですが、漫画は好きで読んでましたよ」

「漫画も好きです。面白いですよねぇ。密室殺人の謎を解くのが楽しいですし、殺害方法で青酸カリとかヒ素とかの毒物が出てくるとワクワクしてしまって、ついその性質や化学式を調べたりなんかして……」


はっ! なに言ってるの私……毒物にワクワクするとか、普通の女じゃないから!

口をつぐんでももう遅い。甘利さんはヒクッと口の端を引きつらせ、若干青ざめた顔で固まっていた。

あぁ、甘利さんもさすがに今のは引いてるわよね……。またやってしまった。今回もご縁はないに違いない……。


 *


「今日はありがとうございました。博識な倉橋さんの話がたくさん聞けて、楽しかったです」

「こ、こちらこそ、ありがとうございました……」


太陽が西に傾き始めた頃、なんだか疲れ切った私は終始にこやかな甘利さんに頭を下げ、ホテルのロビーを出ていく彼を見送った。

二時間弱程度のお見合いで、なぜこんなに疲労感が……残業するほうがだいぶマシなような気がする。

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