結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
「……やばいな。今、無性にキスしたい」


──空耳かと疑う、セクシーな声が鼓膜を震わせた。

え、今…………キス、っておっしゃいました?


「はっ!?」


沈黙の数秒後、私は目が飛び出そうなほど驚愕して叫んだ。無意識に身体を引き、シートベルトを握りしめる。

ま、待って待って、聞き間違いじゃないよね? だとしたらなんで私に、しかも今このタイミングでキス!?

目も頭の中もぐるぐる渦を巻いているような状態の私に、なんだかガラッと雰囲気が変わったような社長は、ふっと色気たっぷりの笑みを見せて言う。


「健気でしたたかで、度胸もある。そして俺が望んだ以上の答えをくれた。いい女だな、お前は」


…………ちょっと、いろいろつっこんでもいいでしょうか。

敬語じゃなくなっているし、“俺”に、“お前”? 紳士的で謙虚ないつもの泉堂社長とは明らかに違う。

私は驚きや困惑が混ざったおかしな顔で、平然と車を発進させる彼にたどたどしく確認する。


「社長……なんか、キャラ変わってません、か?」

「あぁ悪い、お前の意欲に感動してつい素が出た」


彼の口角がちょっぴり意地悪そうにクッと上がり、私は言葉を失くした。

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