結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
■本論■
難攻不落な天才を落とすまでの過程
葛城さんとの会食が始まる予定時刻は、午後六時。あと一時間ほどあるにもかかわらず、フレンチが好きらしい葛城さんのために選んだレストランに到着した。
ヨーロッパの格式ある高級な洋館のような、上品で趣がある外観に感嘆のため息を漏らし、だいぶ雰囲気が変わったように見える社長に問いかける。
「接待って、こんなに早く来て待っているものなんですか?」
「今日は特別だ。倉橋は接待は初めてだろう?」
レストランのエントランスを歩きながら、「はい」と頷くと、木製のドアの取っ手に手をかける社長が、私をちらりと見下ろしてこう言った。
「お前が恥をかかないように、特別講習を受けてもらおうと思ってね」
「特別講習?」
恥をかかないために学ぶことって……マナー?
と思い当った直後、開かれたドアの向こうにいる人物を見て目を見開いた。
ホテルと見紛うようなロビーのソファに座っていたのは、緩く巻いた長い髪をサイドでひとつに結んだ、モデル並みにスタイル良く綺麗な女性。
噂によると二十九歳らしい、社長秘書の綾瀬(あやせ)さんだ。
タイトスカートから伸びるすらりとした脚でこちらに向かってくる彼女は、凛とした雰囲気を漂わせる笑みを見せ、一礼する。