結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
なんだろう、これは見たことがない。私はそれをまじまじと観察して、思ったことを口にする。


「変わったスプーンですね。でも、スプーンって言ったらスープくらいしか……」

「ふっ、ド庶民が」


えぇ~、怖ぁ!

鼻で笑われ、さらに気品ある美女に似つかわしくない毒舌が飛び出し、私は青ざめつつ口の端を引きつらせた。

綾瀬さんって、いろいろな意味ですごい人だ。社長は彼女のこんな姿を知っているのだろうか。

先ほどとはまた違う迫力に圧倒されまくる私に、彼女は秘書の顔に戻ってきちんと説明してくれる。


「これはフィッシュスプーンといって、魚の身をソースと一緒に食べるためのものです。フォークを左手に持って身を押さえながら、このスプーンで切っていくんです」

「あぁ、なるほど!」


そうやって使うのか、と納得して頷きながら、いつものメモ帳に書き込んでおく。そんな私を見て、綾瀬さんは腕を組み、眉をひそめて小さくため息をつく。


「本当に大丈夫かしら……。まぁ、フレンチならお酌する必要はないからまだいいわね」


確かに、お酌するタイミングは難しいし、私もお酒を奨められたら上手く断れないかもしれない。徳利を持つと試験管みたいに振りたくなってしまうし。

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